23 お守り

アキュラ星の空は赤く染まっていた。

脱出フライトまであと3時間しかない。

X50の機体は緒方とディーが必死に整備していた。

レイは操縦席で日本の輸送船と連絡を取っている。

脇田とレオ、翔太は荷物を運んでいた。ノーヴァやX50の避難カプセルから拾った食料や水、医療品、工具などを本船に積み込んでいるのだ。

由里子は医療品にチェックに余念がない。

これらは脱出に失敗したら役に立たない。

成功したら、輸送船にたどり着くまでは必要なものだ。だが、誰も成功するかどうかについては何も言わない。沈黙が重くのしかかる。

 

翔太の妹、美咲はこの星で恋をすることはなかった。

でも、彼女は元気になっていた。

兄妹は無事に救助されたら、マリナスに住む叔父の家で暮らすことになるだろう。

「妹は地球の方がいいって言うんだ。FlowManもいるしさ」と翔太は笑った。

FlowManは地球で人気のアイドルユニット。たぶん美咲の頭の中は彼らのことでいっぱいなんだろう。

「おじさんが許してくれたら、また二人で地球に帰ろうと思うんだ」

翔太は遠くを見つめながら呟いた。

「きっと帰れるさ」

脇田は翔太の肩を叩きながら言った。

 

マリコとユキオ、美咲は機体の外でアキュラのろう者たちと長老に手話を教えていた。

アキュラの人たちは音声言語をすぐに覚えることができるが、ろう者たちはまだ言語を持っていなかった。

長老はユキオの手話に興味を持ち、アキュラの世界にも手話を広めようと提案していた。

ユキオは喜んで講師になった。ろう者たちはユキオの手話に夢中になった。


なぜかレオはこの時、手話の授業に参加しなかった。レオは天才少年で、アキュラの星の謎に魅了されていた。彼はアキュラに残ることを決めていた。レオは手話上達でも目を見張るものがあった。

 

パイロットのレイが操縦室から出てきた。

彼はマリコとユキオ、美咲に小さな袋を渡した。

「これはお守りだ。皆が無事でありますように、ってお願いしてある」と彼は言った。

袋の中には奇麗に束ね輪にした馬のたてがみが入っていた。お守りを渡すと、レイはまた機内に戻った。

「お前さんたちのために全力と尽くす、とさ」

長老はマリコたちにレイの言葉を伝えた。

「ひょっとすると、こないだいなくなったのは、これを…」

マリコは長老に訊ねた。

「そうじゃよ。そして、夜通し祈祷していたんじゃ」

「そうだったの…」

「アキュラの馬神はお前さんたちをきっと守ってくれるよ」と言った。

ろう者たちも『本当に効き目がある』と手話で同意した。

マリコたちはお守りを胸に抱いた。

 

アキュラの星は刻一刻と夜に近付いていた。

 

つづく

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