22
スバルにたどり着いて街へ引き返す時、あの忌まわしい群れが、道端で餌を啄んでいる光景に出食わした。
ヘッドライトが照らし出す煌々とした道路に、不吉な影が落ちていた。
腐臭が鼻を突き、リプリーは思わず顔をしかめた。
まだエサにありついたばかりらしかった。
ハエたちは興奮して羽音を立て、まるで祝宴のように群がっていた。
空気中に漂う生臭い匂いと、獲物を引き裂く音が胃袋をかき回した。
食べられているのが人間でないことを祈った。
そして餌食となっている動物が、まだ生きていることを願った。
リプリーの手は、ハンドルを握りしめ、白くなっていた。
リプリーは急加速して、ハエの群れにスバルを突っ込ませた。
エンジンが唸り、タイヤが悲鳴を上げた。
二匹のハエをひいたが、あとは空へ逃げた。
車体に当たる肉塊の音と、羽ばたく音が混ざり合う。
フロントガラスに琥珀色の体液が飛び散った。
餌食になっていたのは、紛れもなく人間だった。
人間の上半身だった。
それは一目瞭然だった。
顔面からそげ落ちた肉塊がまだ血を滴らせていた。
アスファルトの上に広がる赤い水たまりが、ライトの光を反射して不気味に輝いていた。
アバラ骨が見えている被害者の胸部も確認できた。
肋骨の間から覗く内臓の色が、リプリーの記憶に焼き付いた。
それはデイックだった。
リプリーは車を止め、震える手でドアを開けた。
吐き気を押し殺しながら、かつての仲間の元へ歩み寄る。
デイックの目は虚ろに空を見上げ、口は永遠の叫びの形に開かれていた。
咥えて飛んできたんだ。
まるで俺に見せつけるかのように…。
リプリーは喉の奥でうめいた。
涙が出てきた。
喉の奥に、酸っぱい胃液の味が広がる。
悔し涙に違いなかった。
彼は声にならぬ声を、絞るように吐き出した。
歯を食いしばり、拳を握りしめる。指の爪が、手のひらに食い込んだ。
クソ、俺はあいつらと、本気で戦うつもりだ。
そしてあいつらの創造主も、ついでにブッ殺してやる。
リプリーはサイドウインドウ越しに、闇夜に弧を描いている化け物たちを睨んだ。
彼らの羽音が、まるで勝ち誇ったような笑い声に聞こえた。
彼はタバコを取り出して、それに火を着けた。
震える指で何度もライターを擦る。
やっと火がついたタバコの煙が、周囲の異臭を少しだけ和らげた。
深く吸い込み、思案にくれた。
やがて気持ちが冷静になった。
スバルを急発進させ、街へ向かった。
タイヤが地面を掻き、砂埃を巻き上げる。
ルームミラーに映る惨劇の現場が、徐々に小さくなっていく。
リプリーは喉の奥でうめいた。
デイックとの最後の会話が脳裏をよぎり、悔しさがこみ上げてきた。
「彼には済まないことをした」
リプリーの目は、燃え上がる復讐心と、冷徹な計画性を宿していた。
つづく
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