16
僕たちは、アイドラゴンの番組にあの二人が映っていた理由について議論を重ねた。
五人全員が確認していたのだから、見間違いではない。しかし、なぜ二人があの場所にいたのかは、依然として謎のままだった。
施設で一夜を過ごした後、それぞれが帰路についた。
女子三人は福岡市内の実家へ帰り、奄美大島出身の平石は、そのうちの一人の家に滞在すると言っていた。やはり二人は付き合っているのだ。
僕だけが行く先を決めかねていた。平石と彼女が一緒に来ないかと誘ってくれたが、遠慮した。
まあ、夜までに宿が見つからなければ、ここにもう一泊させてもらうことも考えていた。
玄関で皆を見送った後、僕は事件の発端となった公民館に向かった。職場に戻れば、好奇の目で見られるのが嫌だったからだ。公民館なら、何かしら手がかりが見つかるかもしれない。
公民館に着くと、建物内部はひどく荒らされていた。屋根が破壊され、天井から空が見えている。窓ガラスは割られ、壁には無数の穴が開いていた。
昨夜の手話を使っていた若者のことを思い出した。彼は捕まったのか、それとも逃げ延びたのか。彼が何かを落としたことを覚えていたので、瓦礫だらけの通路を詳しく調べてみた。
通路から部屋に入り、壁を調べると、隠し扉が見つかった。しかし段ボール箱は持ち去られていた。そうだ、昨日船橋が持ち出していたのだった。
腰をかがめて奥を覗くと、なぜか一箱だけ残されていた。僕はその箱を持ち出し、公民館を後にした。
施設の玄関に戻り、段ボール箱を開けようとしていた時、昨夜の夜勤者がやってきて菓子パンとペットボトルのお茶を差し入れてくれた。

「あなただけ行くところがなかったのね。まだここにいるの?」
「ええ。もう熊本へ帰ろうかと考えていたんです」
「そう、それも仕方ないわね。ここはもうすぐ閉鎖されるらしいの」
「閉鎖?」
「市から閉鎖命令が出たの。お昼前に入所者は病院に移送されるらしいわ」
話を聞くと、パンデミック対策という名目で、保健所から一方的に移送指示が出たという。しかし詳細な情報は不足しており、施設に有熱者が出たわけでもないらしい。搬送も「向こうの人間」が全て行うため、介助は不要とのことだった。
彼女が去った後、僕は段ボール箱の開梱を再開した。
箱の中から出てきたのは、青と白のプラスチック製のトイガンだった。ベレッタ型の銃で、見た目とは裏腹にずっしりと重い。子供が遊ぶには重すぎるかもしれない。箱には同じ銃が五個入っていた。
しかしトイガンを手に入れても、特に意味はない。無駄骨だった。
パンデミックによる病院搬送とは一体どういうことだろう。保健所の指示なら仕方がないのかもしれないが…。
アイドラゴンの電源を入れると、昨夜の急造スタジオの映像が映った。今日はジャージ姿の太った男性がホワイトボードの前で手話を使っていた。
〈この銃の取り扱いには十分ご注意ください〉
あの銃だ。画面の男は青と白の銃を左手に持ち、右手で手話をしながら説明していた。
〈まず最初に充電を行ってください。充電が完了しましたら、アクセスランプが点灯します。そこでシリアルキーを入力する必要があります〉
僕は再び銃を取り出してみた。グリップエンドに端子差し込み口がある。スマートフォンと同じタイプのようだった。どうせピカピカ光るだけのおもちゃだろうが。
アイドラゴンに視線を戻すと、男は神妙な顔でカメラに向かって語りかけていた。
〈我々が生き残ったのは、音声によるコンタクトが必要なかったからです。あの病気の末期には○○○が現れます。迂闊に声を掛けようものなら、たちまち襲い掛かられてしまいます。血色がなく、どんよりとした眼差しが特徴で、音、特に人間の音声には敏感に反応します。もし彼らに取り囲まれても決して声を出してはなりません〉
「○○○」という手話表現がよく分からなかった。「人」「食べたい」「傾向」という表現の組み合わせ。どういう意味なのだろう。平石に訊ねれば教えてくれるかもしれない。
スマートフォンで連絡を取ろうとリュックサックを探ったが、充電コードを持ってきていないことに気づいた。スマートフォンは見つかったが、電池残量は90%。そのうち充電が必要になる。
充電コードを再度探してみたが見つからない。おそらく部屋のコンセントに刺したままになっているはずだ。
トイガンをリュックに突っ込み、肩に背負った。仕方がない。寮は壊滅状態だが燃えてはいない。今から探しに行こう。
僕はあの全壊した職員寮へ再び向かうことにした。
つづく
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