気がつくと、テーブルの向こうに一人の男が立っていた。
青と白の大きな銃を片手に持ち、こちらへ歩いてくる。
見覚えのある顔だった。
〈ドローンを撃墜したんだってな?〉
加田崎だった。
〈えっ、いや。銃を向けて撃ったら、勝手に落ちてきただけです〉
そこまで手話して、僕は固まった。
平石も目を丸くしている。
〈加田崎さん……いつの間に手話を?〉
加田崎は怪訝そうな顔をした。
〈何だよ、その顔は。狐に化かされたみたいな顔しやがって〉
平石が尋ねた。
〈だって、耳は悪くないでしょう? どうして手話を……〉
〈親がろう者なんだよ。兄貴も難聴。うちじゃ手話が公用語だった〉
知らなかった。
職場ではそんな素振りを一度も見せなかった。
加田崎は、持っていた銃を僕たちの前に差し出した。
青と白のプラスチック製。
ただし、これまでのハンドガンとは違う。
両手で構えるマシンガンのような形をしている。
〈今のところ、こいつが一番強力だ〉
加田崎は銃を平石に持たせた。
〈機能が二つある。普通に撃つ分には、これまでの3D銃と同じだ〉
銃の側面を指差す。
〈もう一つが、音響攻撃〉
〈音?〉
僕は聞き返した。
〈そう。強烈な音を一定方向へ叩きつける。感染者は音に敏感だろ。そこを逆に利用するんだ〉
なるほど。
声に反応する連中なら、確かに有効かもしれない。
加田崎は銃の側面にあるボタンを指差した。
〈いいか。このボタンを押すと――〉
平石の親指が動いた。
〈あ、まだ押すな!〉
遅かった。
平石がボタンを押した。
僕には何が起きたのか、ほとんど分からなかった。
ただ、空気そのものが震えたような、妙な圧迫感が全身を通り抜けた。
次の瞬間、加田崎の身体が硬直した。
両手で耳を押さえ、その場に崩れ落ちる。
僕と平石は顔を見合わせた。
そして、恐る恐る加田崎を覗き込んだ。
〈あの……大丈夫ですか?〉
加田崎は床に転がったまま、泣きそうな顔で僕たちを見上げた。
〈君たちには分からんだろうがな……〉
ゆっくり身体を起こす。
〈こいつ、ものすごい音がするんだよ〉
そう言われてみれば、重度難聴の僕にも、音というより圧力のようなものは感じた。
補聴器の方は、突然の大音響を抑える機能が働いたらしい。耳の中が一瞬おかしな感じになった程度だった。
平石に至っては、きょとんとしている。
僕たちは加田崎の両腕を取って、何とか立たせた。
加田崎はふらふらしながら、僕たちから銃を取り上げた。
「これで三度目だ……」
口で何か言っている。
読唇すると、そう見えた。
「何で俺ばっかり、こんな目に……」
加田崎は頭を振りながら、よろよろと人混みの向こうへ消えていった。
僕と平石はその背中を見送った。
平石が手話した。
〈……怒ってるかな〉
〈当たり前だろ〉
まったく。
新兵器の威力は、よく分かった。
誰よりも加田崎が。
つづく
