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集会の真ん中では、船橋の声が響いていた。
朗々とした声で話しながら手話も交えていた。すっかり忘れていたが、船橋は健聴者だった。
〈せっかく集まってもらったのに申し訳ないが、明るい話題はない。まずは頭数の問題だ。この人数では厳しい。少なくとも倍以上は必要だ〉
船橋は険しい表情でメンバーに向かって言葉を投げかけた。
〈仲間への声かけを頼むよ。俺もできるだけ声をかけるつもりだが、健聴者には説明が難しくてな……これまでアイドラゴンで周知してきたんだが、健聴者はこれをあまり見ない。それに今はまだ健聴者は誘わない方がいい。場合によっては、俺たちを売る人間も出てくるかもしれん。そうなれば、一気に終わりだ〉
船橋がそこまで言うと、メンバーの一人が手を上げた。
〈健聴者がいれば、最新式の銃は使えないんだろ。だったらいない方がいい。俺たちだけでいい〉
船橋は発言を制した。
〈イヤープロテクターを装着すれば使える。耳栓でもいい〉
〈じゃあ、一緒にやれるな〉
その男が手話で言った。
船橋は冷静に手を動かした。
〈とにかくメンツが揃うのを待とう。戦略的にやるんだ。まずはドローンポートの場所を突き止める。先日、信号電波を探知する技術者が名乗り出た。ドローンの元締めは、市のスポーツアリーナに潜伏しているらしい〉
船橋はメンバーの中のひょろ長い顔をした若者を指差した。
〈彼が言うには、ドローンはあの中の屋根付き球場に格納されているとのことだ〉
〈ちょっと待って。あそこは今、ゾンビだらけよ〉
船橋の声を遮るように、ある女性が発言した。
〈近づくのは無理だわ〉
一同はその女性を見た。背の高い痩せた女性が立っていた。
〈警察署がすぐ側にあるし、自衛隊の練習場も近くにある。取り囲まれたら、すぐに加勢がくるわ〉
僕はその女性に目を奪われた。
船橋は手を動かし続けた。
〈なるほど、だからこそドローンの格納場所として『あそこ』を選んだんだな〉
その女性は発言を終えると、僕の視線に気づいた。彼女は絶句していた。
船橋の説明は続いていた。
〈奴らにとって、そこが強みだ。まずは潜入して、正確な発信場所をつかむ必要がある〉
僕と女性は、互いに視線を逸らせずにいた。
僕は平石に言った。
〈知り合いがいた。ちょっと話をしてくる〉
僕が近づいて行くと、女性は無表情で待っていた。
僕が手を動かす前に、女性が手話した。
〈あなた、捕まってなかったのね〉
女性は河口凛々子だった。

〈逃げ足は速い方なんだ〉
僕は答えた。
〈殴ったのは頭だけだと思うけど〉
凛々子が少し怯えながら言った。
僕はホテルの鏡で見た自分の顔を思い浮かべた。
少し微笑みながら、離れた場所にいる平石を指差して〈その後、彼にも5、6発殴られた〉と言った。
凛々子は無理に笑顔を作って言った。
〈ごめんなさいね〉
指先を震わせながら。
僕が黙っていると、凛々子はさらに続けようとした。
〈子供を守るのに必死だったの……〉
彼女の弁解の途中で、何かが始まった。
つづく

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