世界から少しずれた誰かの、声にならない叫び。ささやかな祈り

時の彼方で 7. 腹痛

時の彼方で 7. 腹痛

暗闇が迫る中、五人の少年たちは途方に暮れていた。

濃紺色の剣道の胴着は、闇夜に紛れるのに都合がいい。

野宿でも構わなかったが、地べたに寝転ぶのは、やはり抵抗がある。

どこか泊まれる場所を探さなければならなかった。

空はすでに薄暗くなり、町の明かりもぼんやりと灯り始めていた。

急に地面が石畳になり、暗い感じの建物が並んでいた。境内の近くまでやってきているらしかった。

〈今夜の泊まる場所を見つけなきゃ〉と横井岳人が四人に手話で話しかけた。

岳人の表情は焦りを隠せなかった。

〈野宿は嫌だな・・・野良犬がいるもんな〉

大和が頼りな気に呟く。

〈野良犬がいるの?〉

岳人が訊ねた。大和が遠くの藪を指さした。

〈さっきから、向こうの方で吠えてるよ〉

大和は手話を苦手としていたが、この状況でどうにか結論を出さなければならなかった。

メンバー間の意思疎通が手話だからだ。

手話は完全な闇になれば使えなくなる。

〈誰だよ!?後ろにいるの〉

猿渡飛雄が突然、驚いたように後ろを振り返った。

彼の目線の先には、狩野陽向が座り込んでいた。

〈どうした、陽向?〉

佐々剛介が冷静に問いかけた。

〈腹がさっきからずっと違和感があって…変な汗が〉と陽向は苦しそうに手話で説明した。

顔は青ざめ、額には冷や汗が浮かんでいる。

〈食い意地張って、だご汁を何杯もお代わりするからだ〉

岳人が冗談めかして言うが、その目は困惑でいっぱいだった。

〈俺の分まで手を出しやがって〉

猿渡飛雄も手話で責めるが、彼の顔にも焦りが見える。

〈だって、いらないって言ったろ〉

狩野陽向が反論する。

〈あれは古かったんだ。変なニオイがした。だからいらないと言ったんだ〉

飛雄が返すと、陽向は〈ああ、痛い…〉と苦しそうにうめいた。

〈これは弱ったな…〉

松井大和がため息をつき、周囲を見渡した。

どこか休める場所を探そうと必死だった。

〈どこか休める所を…でももうあの店へ引き返すのは無理だな〉

飛雄が言いかけたとき、誰かの影が近寄ってきた。

「いかがなさいました?」

一人の女性が心配そうに近づいてきた。品の良さそうな着物の、若い女性だった。

「はい。仲間が急に腹痛を起こし苦しんでまして…」

大和が答えると、大黒静香は優しい笑顔を浮かべた。

「それは大変ですね。もしよろしければ、私のところにいらしてください」

静香は快く申し出た。

大和はためらいながら言った。

「あの、恥ずかしながら、我々はお金を持っていないんですが…」

「ええ、構いませんとも。いらっしゃい」

静香の案内で、彼らは大黒屋へと向かった。

大黒屋は町の中でも立派な造りの家で、温かい灯りが漏れていた。

静香は手早く玄関を開け、五人を招き入れた。

「こちらへどうぞ」

彼らはスニーカーを脱ぎ、中へと入った。

広い部屋には畳が敷かれ、心地よい香りが漂っていた。

 

つづく

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