2 マリコと猫背の男
出航間際になって、さらに二人の男性が入ってきた。
背の高い男性は奥の方へ、猫背の男は、マリコの向かいに座った。
マリコは抱いていた膝を降ろして、今度は軽く腕を組んだ。
「いやぁ、暑い、暑い」
猫背は腰を降ろすなり、扇子のようなものを広げてパタパタと顔をあおぎ始めた。
マリコは少し驚いて、そんなに暑いのかと尋ねた。
猫背は「うん」と頷いた。
「どこから来たの」
「ニヴァだよ」
マリコが、そんな星知らないと答えると、その男は
「マリナスは知っているよね?」
「それだったら、知ってる」
彼は右手の人差し指で円を描きながら
「マリナスのまわりをね、まわってんの」
と、簡単に説明した。
「ふぅん、ニヴァねぇ」
マリコは興味なさそうに、再び膝を抱いた。
男はとても寒いところだと言った。
「寒いの」
「ああ。氷だらけだし、食い物なんてあんまりない」
「地球に何しにきたの」
「息子を連れてきたんだ」
「観光?」
「まあそんなところだ」
「でも息子さんの姿はないわね」
遠くから放たれたサーチライトの光が、二人を照らしながら窓を横切っていった。
男は眩しさを堪えるためだろうか、腕組みをしてじっと押し黙っていた。
そして急に思い出したように、ズボンのポケットを探り始めた。
差し出された男の手に、赤色の小さなカードがあった。
「マリナスの政府から、こいつを突きつけられて、息子達を地球に連れていくように言われたんだよ。日本がちゃんと面倒見るからってさ。息子もニヴァにはいたくないって言い張ってね。そういえば、何にもないもんなぁ、あの星」
「でも、なぜ地球に預けるわけ?」
「疎開だよ。 条件付きの」
「条件付きの疎開」
「どうもマリナスで内乱が始まるらしいんだ。ほとんどの親が子供をあちこちに疎開させているよ」
「条件付きってのは?」
「子供が大きくなったとしても、10年間は地球で働かなければならないんだ」
猫背の男は、頭を掻きながらぼやいた。
マリコは、長男についてさらに尋ねてみた。
すると男は決まり悪そうに、「息子は頭が良すぎるから」と言った。
「地球ではあいつみたいな天才は、特別な教育を受けるんだってさ。マリナス政府がそう言ってる」
「あなたも地球にいればいいじゃない。ここは住みやすい星よ」
「いや、妻が待っているし、俺はこの星では厄介者になるだけなんでね」
「ええと、鷹を産んじゃったトンビの心境かしら」
少し悪戯っぽい口調で、マリコは言った。
「うまいなぁ、まぁそんなところだよ」
「あなたの息子さん、立派になると思うわ」
「まいったなぁ。でもありがとう」
猫背の男は赤面した。
「と、ところで、君はどこの人なの?」
猫背の男はマリコに尋ねた。
「地球の人。これから人に会いに行くのよ」
「ご両親にかい?」
マリコは少し考えて答えた。
「地球でママと暮らしていたんだけど死んじゃったの。それでマリナスで働いてるパパの所へ行くの」
と言った。
「へぇーマリナスに行くんだ…」
男はまじまじとマリコを見つめた。
「君も色々と大変なんだね」
サーチライトの光が、再び窓を横切っていった。
つづく
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