17
ケンジは病院の煉瓦門を抜け、受付で聞いた住所に向かうバスを待った。
時刻表を見る間もなく、バスはやってきた。
彼は運転手の後ろの席に座った。
シートに腰を下ろした瞬間、体中の疲れが押し寄せてきた。
しばらくすると、商店街の小さな店々が過ぎ去り、大きな川を渡った先に広大な造成地が広がった。
ショベルカーやブルドーザーが山を作っていた。
運転手が「チェインバーグの新しい工業団地だ」と教えてくれた。
「どこまで行くんだい?」と運転手が尋ねてきた。
ケンジは行き先を伝えた。
運転手は頷いたが、それ以上何も言わなかった。
工場が立ち並ぶエリアで、屈強な男が五人乗り込んできた。
彼らは後部座席に座った。
運転手は「お兄さんは次で降りればいいよ」と告げ、バスは再び動き出した。
バスに揺られること十分、ケンジは工業地帯の外れで降りた。
異臭が鼻を突いたが、歩くうちに慣れてきた。
新築の工場建物は新しいわりには汚れており、空にはスモッグが充満していた。
リンダとアレンのアパートまでは、それほど時間はかからなかった。
階段下で男と女が見つめ合っている。
ケンジが近づくにつれて、その二人の関係がわからなくなった。
男は媚びへつらい、女は無表情だった。
ケンジは女と目が合い、リンダだと思った。
彼女は褐色の髪を後ろに束ね、厚手のカシミアのセーターを着ていた。
彼女は男の話に面倒くさそうに相づちを打っていた。
ケンジはそのまま二階へ上がり、表札を見てドアのチャイムを鳴らした。
「エミリー・フックスという女の子の知り合いなんだけど」
部屋から出てきたのはアレンだった。
彼女は玄関先で母親を探していたが、母親はまだ階下で男と睨み合っていた。
「それが何なの?」
「君のお父さんやエミリーと親しい者だけど、エミリーに頼まれてウインドベルから来たんだ」とケンジは言ったが、自分でも下手なセールスマンのように聞こえた。
「名前は?」
「ケンジ・オカムラ。君のお父さんの名前はサム・フックス。彼のレストランの常連で、用事ができてチェインバーグに来ることになり、ついでにエミリーから君たちを訪ねるように頼まれたんだ」
「あなた、探偵さんなの?」とアレンが尋ねた。
ケンジは疲れを感じた。
「どうしてそう思うんだい?」
「テレビでそんな喋り方をする探偵を見たから」
その時、母親が玄関先に戻ってきた。
「ママ、来たわよ。本当に来ちゃったのよ、この人」とアレンが言った。
リンダはケンジの顔を見ながら何かを思い出し、「よくいらっしゃいました」と言った。
ケンジは二人を交互に見回した。
「初めてですか、この土地は?」
リンダは微笑みながら訊ねた。
「ええ、なかなか結構な土地柄で」と意味不明なことを言いながら、ケンジは頭を掻いた。
招かれざる客ってのを想定してやってきたけど、意外と歓迎されてるっぽい。
一体、これはどうなっているんだ?
つづく
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