目を覚ましたとき、タントは柔らかな砂の上に横たわっていました。

空は青く澄み、風は穏やかでした。けれども体中が痛み、動くこともままなりません。

周囲の音は、まるで綿で包まれたかのように、ぼんやりとしか聞こえません。耳鳴りと、かすかな波の音だけが、彼の世界を埋めていました。

「ここはどこだろう…?」

タントはうつろな目で周囲の状況を確かめ、ぼんやりと思いました。

そのとき、甲高い声が聴こえたような気がしました。

…誰かが私を呼んでいる…。

タントが顔を上げると、太陽の光を背にした少年が駆け寄ってくるのが見えました。

少年の名はクリオ。

彼はすぐに父親を呼び、二人でタントを支えながら家に運びました。

「この人、どんなに大変な目にあったんだろう…」とクリオは心配そうに言いました。

父親は静かにうなずきながら、「たぶん嵐で遭難したんだ。まずは温めて、この人の力を取り戻させよう」と言いました。

クリオの家族は、タントの体を毛布で包み、温かいスープを作ってスプーンで口元に運びました。

「少しでも飲めるかしら?」

母親が優しく声をかけると、タントはわずかに目を開け、スープを一口飲み込みました。

その味は不思議なほど懐かしく、涙がこぼれました。

タントは高熱にうなされながらも、時折目を覚ましました。

そのたびにクリオや家族の表情や目の動きを読み取り、その優しさに心を打たれました。

クリオが「早く良くなってね」と言っているのを、口の動きから理解しました。

島の薬草を使ったお茶も差し出され、その香りがタントの心を落ち着かせました。

ある晩、タントはクリオとジェスチャーと筆談で会話しました。少しだけコミュニケーションできる自信を取り戻しました。

「君たちは、どうしてこんなによくしてくれるんだい?」

クリオはにっこり笑って、ゆっくりと言葉を紡ぎました。

「だって困っている人を助けるのは当たり前だよ。それに、お父さんが教えてくれたんだ。海が運んできた人は、島にとって特別な意味を持ってるって」


タントは唇の動きを注意深く読み取り、「特別な…意味?」と手のひらに筆談して尋ねました。

クリオの父親が静かに部屋に入ってきて、言葉とジェスチャーで説明しました。

「この島では昔から、海が人を運んでくるとき、それは何か大事なことが起きる兆しだと言われているんです。あなたも、きっとアラアラ島にとって特別な存在なのでしょう」

タントはその言葉の意味を深く考え、うなずきました。

クリオの父親が静かに部屋に入ってきて、タントの目を見てゆっくりと口を動かしました。

「この島では昔から、海が人を運んでくるとき、それは何か大事なことが起きる兆しだと言われているんです。あなたも、きっとこの島にとって特別な存在なのだと思います」

タントはその言葉に深く考え込むように、深くうなずきました。

自分を救い、看病してくれた家族の優しさに心から感謝しつつ、耳が聴こえなくなった自分にこれから何ができるのか、思案に暮れました。

数週間後、タントはすっかり元気を取り戻しましたが、耳は依然として聴こえないままでした。

クリオと一緒に海辺を歩きながら、彼は島の美しさに目を見張りました。

「この島は、本当に素晴らしいね。君たちに会えて、僕は幸運だった」

クリオは笑顔で答えました。

「僕もだよ!でもタントさん、これからどうするの?」

タントは少し考えてから言いました。

「まだわからない。でも、耳が聴こえなくっても、君たちのように人を助けることができる人間でいたいとは思っている」

クリオはその言葉に満足げにうなずきました。

「それならきっと、この島で素敵なことがたくさん待ってるよ!」

タントはその言葉を胸に、アラアラ島での新しい生活のプランを考えました。

波の音が静かに響く中、彼は未来への希望と不安を感じながら、クリオとともに歩き続けました。

 

つづく

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