世界から少しずれた誰かの、声にならない叫び。ささやかな祈り

時の彼方で 10.陰謀

時の彼方で 10.陰謀

10

合志十右衛門の屋敷。

豪華な装飾が施された広間には、重厚な雰囲気が漂っていた。

壁には家紋が描かれた掛け軸が掛かり、床には高価な畳が敷かれていた。

障子越しに漏れる蝉の声が、室内の重苦しい空気を引き立てる。

座敷には合志仙蔵と牛俵重蔵、それに御用商人である桐場屋がいた。

十右衛門はその中央に座り、厳しい表情で牛俵重蔵の報告に耳を傾けていた。

その目には怒りの炎が燃えているようだった。

「何と、拒絶したと申すか」

十右衛門の低い声が部屋に響き渡る。

牛俵は頭を下げたまま、おずおずと答えた。

「身の程をわきまえず、この縁談は無かったこととして、ご家老にお伝え願いたい…と」

その言葉を聞いた瞬間、合志仙蔵が興奮して叫んだ。

「父さん!」

十右衛門は息子を鋭い目つきで制した。

「慌てるでない!」

彼は立ち上がり、ゆっくりと部屋の中を歩き始めた。

その足音が畳に響き、緊張感をさらに高めた。

「乞食道場の娘などに興味はないが、わしの意向に逆らう者がおるとなれば、放っておくわけにはいかぬな」

十右衛門の言葉に、桐場屋が慌てて相槌を打った。

「ご家老様に逆らうなど、言語道断でございます」

牛俵重蔵が十右衛門ににじり寄った。

重蔵は機を見るに敏な男だった。

彼は頭を上げ、十右衛門に向かって提案した。

「ご家老様、ここは私めにお任せいただけますでしょうか?」

十右衛門は足を止め、牛俵を見つめた。

「どう致すつもりか?」

牛俵の目に、不気味な光が宿った。

「大久保藤淳さえおらぬならば、若君のご希望を叶えることができましょう」

その言葉の意味を察した仙蔵が、思わず声を上げた。

「始末するつもりか?」

十右衛門は長い間黙っていた。部屋の空気が凍りつくようだった。

やがて、彼はゆっくりと口を開いた。

「よかろう。ただし、わしは一切関知せぬゆえ、そのつもりでおれ」

その瞬間、牛俵の顔に邪悪な笑みが浮かんだ。

仙蔵は父の決断に驚き、言葉を失った。

夜が更けるにつれ、屋敷の外はますます静まり返っていった。

蝉の声も遠くに聞こえているのだが、その音はどこか不気味な響きを持ち、くぐもって聞こえた。

 

つづく

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