10 ストレンジ・ワールド
脇田はカプセルの窓から外を見た。
目に入るのは、赤く燃えるような空と、奇妙な形をした岩や植物だけだった。
ここは本当にマリナスなのだろうか。彼はそう疑問に思思った。
隕石によって船は大破し、彼らは救命カプセルに乗って脱出したのだ。
その時、彼の隣にいたのは、マリコとユキオ、翔太、美咲、レオという5人の子供たちだった。
マリコとユキオはマリナスに住む肉親に会いに行くところだった。
翔太と美咲はこの事故で両親を失くしてしまった。
レオは元々孤児だが、頭が良すぎるのか、仲間から浮いている。
脇田は彼らの保護者ではなかったが、たまたま一緒にカプセルに乗ったのだ。
彼は元々、マリナスでライターとして働く予定だった。だが、今は売れっ子ライターも遠のいてしまった。
カプセルは惑星の表面に落下したが、幸いにも6人は無事だった。
カプセルの中には食料や水が備えられており、レオが言うには、通信機も壊れていなかった。
交信は一切出来なかったらしいが…。
やはり今は助けが来るのを待つしかないのか。
夜になるとカプセルの外から恐ろしい声が聞こえてきた。
それはこの惑星に住む獣たちの鳴き声だった。
彼らはカプセルのドアを固く閉めて、身を縮めていた。
獣たちはカプセルを引っ掻いたり、噛んだりしていたが、幸いにも中には入れなかった。
しかし、彼らはいつまでもカプセルに閉じこもっていられないと思った。
もし、この惑星がマリナスだとしたら、人間の住む場所があるはずだ。そこに行けば、助けを求めることができるかもしれない。
だが、この惑星がマリナスではないとしたらどうなるのだろう。子供たちは未知の惑星に遭難したのだろうか。
「ここはどこなのか、それを知るためには、もっと歩き回る必要があるな」
脇田は自分に言い聞かせた。彼はカプセルのドアを開けて外に出た。空気が薄いのか、少し呼吸が苦しかった。
子供たちは不安そうに彼の後についてきた。
「マリナスではないと思うわ。この空の色はおかしいし、あんな険しい山も見たことない」
マリコが言った。彼女は地理に詳しかった。マリナスの地図をよく見ていたからだ。
『じゃあ、どこなの?』
ユキオが訊いた。彼は怖がりだった。夜の獣たちのことを思い出して、肩が震えた。
「わからない。でも、もしかしたら、他にも人がいるかもしれない。だから、探してみよう」
脇田はそう言って、歩き始めた。
彼はカプセルの周りに落ちていた宇宙船の残骸を拾い集めた。
それらをカプセルの上に積んで、SOSの文字を作った。
もし、船から脱出した他の乗客がいたら、彼らに見つけてもらえるかもしれないと思った。
だが、その可能性は低かった。彼は自分たちが唯一の生存者だと思っていた。
彼らはカプセルから離れて、丘を登った。丘の上からは、この海岸線一帯が見渡せた。
だが、そこには人の気配はなかった。
ただ、遠くに広がる紺色の海が見えた。
それはマリナスの青い海と違い、生きる厳しさを感じさせる海だった。
脇田はその海に向かって歩こうと思った。
海には水があるし、魚もいるかもしれない。浄水器は高性能で海水の濾過も可能だった。
当面は飢えと渇きに苦しむことはなかった。
しかし、カプセルに積まれている水や食料は豊潤にあるとは言えないし、浄水器もいつ壊れるか分からない。
「海に行こう。そこには何かあるかもしれない」
脇田はそう言って、子供たちに丘を下りる合図をした。
つづく
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