12 トンネルの向こうの不思議な村

彼らはトンネルに入っていった。トンネルは広く、深く、一本道だった。

トンネルの壁には、所々に火のついた松明が立てられていた。

松明の光は、岩壁の中を照らしていた。彼らは松明に沿って奥へと進んでいった。

やがて、彼らはトンネルの向こう側に着いた。そこには、驚くべき光景が広がっていた。

それは、低い屋根が立ち並んだ村落だった。

村には、小さな家や広場や井戸があった。家は、丸太や石や土で作られていた。広場には、花や果物や野菜が飾られていた。池からは、清らかな水が湧いていた。

村には人々が住んでいた。人々は、人間とは違う姿をしていた。彼らは、緑色の肌と青い髪と赤い目をしていた。全員背丈が低く、子供のようにも見えた。彼らは、子供たちたちが見たこともない服を着ていた。脇田たちが聞いたこともない言葉を話していた。彼らは、説明されるまでもなく、この惑星の住民だった。明らかな知的な生命体だった。

『びっくりした。村があるよ。緑色の人がいる』

ユキオはそう言って、他のメンバーたちと顔を見合わせた。

子供たちは脇田に従って、村に入っていった。

彼らは、村の中に何があるのか、どんな対応が待っているのか、皆目見当がつかなかった。

村の人々は、脇田たちの到着に気づいた。

彼らは、彼らに興味を持って集まってきた。

彼らは、子供たちに歓迎の意を示した。彼らは、彼らに笑顔を向けた。子供たちに手を振った。彼らは、彼らに友好的だった。不思議な光景だった。

「あれ、見て。あの人たち、優しそうだね。私たちに話しかけてるよ」

マリコが言った。彼女は村の人々に笑顔で感謝した。

「本当だ。でも、どうしてこんなにすんなり受け入れてくれるのかな。この惑星には、他にも地球人がいるのかな」

翔太が言った。彼は村の人々の対応を不思議に思った。

「わからない。でも、もしかしたら、この惑星は、マリナスではないのかもしれない。この惑星は、別の名前を持っているのかもしれない」

脇田はそう言って、村の人々に近づいた。彼は村の人々に質問したかった。彼は村の人々に答えを求めた。

「こんにちは。私たちは、地球から来た人間です。あなたたちは、マリナスの住民ですか。この惑星の名前はマリナスですか」

脇田はそう言って、村の人々に尋ねた。

「いえ、マリナスではないんです」

どこからか、男の声がした。

すると緑色の住民たちに紛れて、こちらの様子を伺っている、数人の姿が目に入った。

しばし、両者はにらみ合っていた。

「あなたたち、誰なの」

マリコはじれったそうに訊いた。

彼らのうちの一人が彼女の言葉を聞いて、一歩前に踏み出してきた。

そこで子供たちは、思わず息を飲んだ。

なぜならばその彼は、宇宙スーツを着ていて、地球でいえば、典型的な東洋人タイプに当たる風貌をしていたからだ。

そしてもっと驚いたことに、彼は日本語を喋った。

銀色のスーツの胸に、国連のマークがあった。

子供たちはこの幸運に顔をほころばせた。

前に出てきた男は、少しの間のびしたかん高い声で、脇田や子供たちの体の具合を気づかった。

脇田が特に心配いらないと答えると、そこで初めて、この男の顔にも笑みがこぼれた。

「皆で心配してたんですよ。 獣たちに襲われやしないかと思って」

その男が穏やかな調子でしゃべり出すと、彼の背後で息を殺していた仲間たちがやっと前へ出てきた。


皆一様に背が高かった。

よく見ると、若い日系の女性、白人の男性が一人、そして浅黒い肌をしたラテン顔の中年男が一人いた。

目の前でしゃべっている日本人を含めて、四人だ。

こんなに変な取り合わせのレスキュー隊が、果たしてマリナスに存在したであろうか。

脇田は疑問を持った。

「ところでここはどこなんですか。 見慣れない景色なんで、心配していたんです」

すると男は、ただ首をすくめるだけだった。

男は肩を落としてつぶやいた。

「とにかく、マリナスでないことは確かです」

一同は無念そうに、ため息をついた。

彼らの住みかは、村落のはずれにあった。彼らは子供たちを住まいに案内した。

トンネルを抜けて最初に声を掛けてきたのは、日本人の緒方という男性だった。

彼とラテン系の男が、脇田と話しながら一同の前を歩いていた。

途中でラテン系が振り向いて、カタコトの日本語で何かを話しかけた。

咄嗟の出来事だったので、よく聞き取れなかった。

「名前を言ったんです。彼の名は発音が難しいんでね、ディーと呼んでください」

横から緒方が補足した。

「あとの二人はどこに行ったんですか」

脇田は村の途中から姿が見えなくなった、若い二人のことを訊いた。

「ああ、彼らだったら、先に住まいに帰ったんでしょう。 夫婦ですよ、あの二人は」

「まあ、夫婦ですって」

マリコは興奮して、訊き返した。

「そう、ここでも夫婦生活を送っている地球人がいるのです」

ディーがそう言って、苦笑いをした。 アクセントも言い回しも変なので、マジメに言ってるのか、ふざけて言ってるのか分からない。子供たちは苦笑いした。

緒方は話を続けた。

「この星の住民たちにいろいろと面倒を見てもらっているんです。これから村長へ会いに行きましょうか」

列の後ろから美咲が駆けてきて脇田に言った。

「わたし、イヤだわ。脇田さん、カプセルに戻りましょうよ」

困惑して脇田は訊ねた。

「何がイヤなんだい?」

「み、み、緑のお魚みたいな人たちと暮らすなんて」

「まあ、待て。戻ったってたいして変わりないじゃないか。それに夜になれば、あの化物どもがまたやって来るかもしれん。ここはひとつ、この人たちの言う通りにした方が良さそうだぞ」

脇田が言うと、翔太もやってた。

「そうだよ。悪い人じゃないよね」

翔太は聞き分けのない妹に手を焼いているようだった。

「目が慣れると、結構美男美女が多いことに気付きますよ」

緒方が言うと、

「あ、そうなんですか?」

「地球ではFlowManってダンスユニットが流行ってましたよね。あれのレンに似たやつがいたんですよ」

「まぁ、そうなの。この村に?」

美咲はそれきりカプセルのことは言わなくなった。

 

つづく

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