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その日の朝、小学生の男の子は、いつものように学校へ向かう途中でコンビニに立ち寄った。
店内のテレビから流れるニュースに、彼は足を止めた。
「チェインバーグ国定公園で発生した大規模な山火事の煙が、市街地まで到達している模様です。そして更なる驚くべき事態が…」
アナウンサーの声が急に緊張を帯びた。
「巨大なハエが市街地に出現したとの情報が入っています。」
画面には、普通のハエの少なくとも10倍はある巨大な昆虫の映像が映し出されていた。少年は思わず息を呑んだ。
「お母さんが言ってた…あの事件と関係あるのかな…」
彼の母は環境保護団体で働いており、5年前のパルチノン薬害事件について時々話していた。
その日の午前中、テレビには著名な生物学者・山田教授が登場した。
「これほどの大きさのハエは、通常の進化では説明がつきません。何らかの人為的な要因が…」
と語る途中、スタジオに緊急ニュースが入った。
「速報です。確認された巨大ハエの数が、一匹から五匹に増加しました。」
「危険よ!窓を閉めて!」
「でも暑いわ…」
「今は安全が大事よ!」
街中でこんな会話が交わされる中、チェインバーグ警察は記者会見を開いた。
「現時点で、国定公園の山火事と巨大ハエの出現との関連性は確認されていません」
しかし、その発表から数時間後、ウインドベル警察が衝撃的な文書を公開した。
フレデリック・オットーという研究者が五年前に環境庁に提出していた調査書だった。
「パルチノングループの工場から流出した化学物質により、昆虫の異常な突然変異が観察された…」
オットーが保管していた写真には、今回出現したものと酷似した巨大ハエが写っていた。
その日の夕方、事態は急変した。
「お願い!誰か助けて!」
商店街から少女の悲鳴が響き渡った。
防犯カメラには、巨大ハエが買い物客を次々と襲う様子が映っていた。
わずか一日で死者は50人を超えた。
夜のニュースで、生存者の少年が映し出された。
病院に運び込まれる彼の左腕は、ぼろぼろに食いちぎられていた。
「レン!しっかりして!」
母親の必死の声。
「どいてください!患者の搬送を妨げないで!」
看護師が報道陣を押しのける。
少年は痙攣を起こしながら、救急処置室へと消えていった。
その夜、市は非常事態宣言を発令した。
だが、これは悪夢の始まりに過ぎなかった…。
混乱の中、少年は母の言葉を思い出していた。
「あの時、私たちは警告を無視した。そして今、その代償を払わされているのよ…」
街には不気味な羽音が響き、夜の闇の中で巨大な影が次々と増殖していった。
つづく
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