世界から少しずれた誰かの、声にならない叫び。ささやかな祈り

サイレント・レジスタンス 21 監視の目と逃走

サイレント・レジスタンス 21 監視の目と逃走

第21話 監視の目と逃走
 市役所の門を抜けると、僕はすぐさま裏通りへと足を向けた。
 幸い、この路地にはまだパトカーの姿は見えなかった。
 警戒しながら市役所から離れていく途中、ふと空を見上げた。
 小型のドローンが静かに浮遊している。
 また、あいつだ。
 僕が歩を進めるたびに、上空で微妙に位置を変えている。
 明らかに僕を追っていた。
 やがてドローンの胴体から、細い筒のようなものが伸びてきた。カメラなのか、それとも別の装置なのか分からない。
 僕は空を仰ぎ見た。
「何を撮ってるんだ?」
 間を置いて、さらに問いかける。
「お前を操ってるのは誰だ?」
 返事があるはずもない。
 ドローンは何の反応も示さず、カメラのレンズだけが冷たく僕を捉えていた。
「分かったよ。もういい」
 そこまで言って、ハッとした。
 いけねえ、声が出た。
 慌てて周囲を見回す。
 誰もいない。
 僕はリュックから青と白の銃を取り出し、ドローンに狙いを定めた。
 トリガーを引く。
 銃が白く発光し、ドローンの機体が大きく傾いた。そのまま落下し、地面に激突する寸前に破裂した。
 僕は反射的に身をかがめた。
 細かな破片が路上に散らばり、白い煙が立ち上る。
 これで二機目だ。
 その時、路地の向こうに人影が現れた。
 若い警官だった。
 しまった。
 さっきの声を聞きつけたのかもしれない。
 警官は僕を見つけると、ゆっくりこちらへ歩き始めた。
 両眼が赤く充血している。
 間違いない。感染している。
 僕は後退した。
「何もしないから、そのまま行ってくれ」
 警官の歩みが速くなった。
 いけねえ。
 また喋った。
 喋んな、オレ。
 黙って逃げればいいのに、どうして僕は、いちいち相手に言い聞かせようとするんだ。
 警官が腰に手を伸ばした。
「だから来るなって!」
 言ってから、また気づいた。
 もう知らん。
 僕は青と白の銃を構え、トリガーを引いた。
 銃が白く光り、警官の身体が大きく揺れた。
 その場で膝をつき、前のめりに倒れる。
 僕はしばらく動けなかった。
 銃を構えたまま、倒れた警官を見つめる。
 動かない。
 恐る恐る近づいた。
 警官はうつ伏せに倒れていた。
 呼吸はしている。
「だから来るなって言っただろ」
 僕は銃を下ろした。
 このまま放っておけば、そのうち意識を取り戻すだろう。
 だが、以前倒した警官のように、目を覚ましたあと、もっと厄介な状態になる可能性もある。
 早くここを離れた方がいい。
 立ち去ろうとして、足を止めた。
 倒れた警官のそばに拳銃が落ちていた。
 本物だ。
 僕はしばらくそれを見つめた。
 拾うべきか。
 やめておくべきか。
 青と白の銃がいつまで使えるのか分からない。
 どういう原理なのかも分からない。
 これから先、何が起こるのかも分からない。
「……仕方ないか」
 僕は拳銃を拾った。
 ずしりと重い。
 玩具とは違う。
 これで人が死ぬ。
 そう思うと、急に気味が悪くなった。
 扱い方もよく分からない。下手に触らない方がいい。
 僕は拳銃を持っていくことにした。
 青と白の銃を手に入れた時とは、まるで気分が違った。
 あっちは正体不明の道具だった。
 こっちは違う。
 何のために作られたものなのか、嫌でも分かる。
 倒れている警官を振り返った。
 まだ動かない。
「悪いな。借りていくよ」
 返す機会があるのかどうかは分からない。
 僕はその場を離れた。
 しばらく歩いてから、もう一度空を見上げる。
 ドローンの姿はなかった。
 それでも、どこかから見られているような気がする。
 あのドローンは何を監視しているのか。
 誰が操っているのか。
 なぜ僕の行く先々に現れるのか。
 何一つ分からない。
 ただ、ここに長居してはいけないことだけは分かっていた。
 僕は人通りの少ない路地を選び、先を急いだ。

つづく

狩猟本能

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