14.草原の向こうに
朝になったら、外はすごい騒ぎだった。
どうしたんだろう?
みんなが集まってるのが見えた。
でも、起きるように言われなかったから、そのまま寝てた。
ずっと寝てたかった。
昼ごろ、脇田はやっと起きた。
マリコとユキオはもういなかった。
脇田は緒方を呼んでみた。
でも、誰もいなかった。
ずっと小さな小屋にいるのはつまらない。
脇田は勇気を出して外に出てみた。
朝の騒ぎはもうおさまっていた。
長老がみんなを呼んで、何か話していたみたいだった。
すごくうるさかったから、小屋の近くの広場でやってたんだろう。
脇田はとりあえず、広場に行ってみた。長老の家もそこにあるって、緒方が言ってた。
緒方たちの小屋は、村の真ん中にあった。
家のほとんどは、広場に向かってドアがあった。
どの家も小さくて、壁は木を積んで作ってあった。
屋根はいろんな種類があって、わらで作ったのもあれば、木をきれいに組んだのもあった。木のかけらを拾ってきて、なんとなく作ったみたいなのもあった。
高い木があるから、雨や風にはあまり気を使わなくていいのかもしれない。
広場はこの村に来たときに、長老に初めて会ったところだった。
暗い村の中で、この場所だけ、明るかった。
「暖かいね」
脇田はうれしそうに言った。
空を見上げた。
青い空に、白い雲が一本、細く流れていた。
深く息をした。
この星に来てから、初めて自分が無事だって喜べた。
それまでは、忙しくて体がついていけなくて、そんなこと考える暇もなかった。
「少し歩こうか」
どこに行こうかなと思って、脇田は歩き出した。
でも、ついつい早足になってしまった。
「ばかだな。ゆっくりでいいんだ」
体だけがあわててるみたいで、おかしかった。
村の男の子が広場のはずれの木の下にいるのに気づいた。
不思議そうに、脇田を見ていた。
脇田はその子に手を振ってみた
。
「どっちが、一番きれいな景色なの?」
その子が近づいてくると、脇田は聞いた。
すると子供は、海とは反対の方を指さした。
ちょっと怖がってるみたいだった。
「ついてきてくれ」
と、子供は言った。
「いいよ。一人で行けるよ」
「村から離れちゃだめって、長老に言われてるんだ。だから、オラについてきてくれ」
こんなに小さな子供にそう言われるなんて、恥ずかしい、と脇田は思った。
でも、昨夜の怖い動物たちのこともある。脇田はその子についていくことにした。
「あれ、あなたたちが作ったの?」
「あれって」
歩きながら子供が聞いてきた。
身体の細い、コートのフードを被った子供だった。
背たけは脇田の腰くらい。
地球の子供たちのほうが背が高いかもしれない。
「あのね、海岸に落ちてたやつ」
船のことを聞いてるみたいだった。
「ああ、あれね。そうだよ。『ぼくら』が作ったんだよ」
「へえ、すごいね」
「まあね。でも、そんなにすごくないよ。ハハハ」
何も知らない子どもに対して、この男はつまらない嘘をつく。
「手で喋ってる人もいた」
あぁ、ユキオのことだろう。
「隣りにいた女の子が、何て話してるのか教えてくれた」
それはマリコだ。
「もう、みんなビックリしちゃってさぁ。広場に人が集まるのなんの…」
それであんなに騒がしかったんだ。
「地球人ってスゲーな。あれならオラの姉さんもさぁ…」
「えっ?」
「ううん、何でもない」
タクバは急に押し黙り、足早に先を歩き出した。
森を出たら、すごく広い草原が目の前に広がっていた。
脇田はびっくりして、声を出した。
「すごいね。これが君が一番好きなところなの?」
「そうさ」
子供は誇らしげに言った。
つづく
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