38
スクリーンの下には、いくつものストレッチャーが並んでいた。
ストレッチャーには全裸の人体が一体ずつ仰向けに横たわっている。
彼らの頭部には一様に金属片が突き刺さっていた。
一種の電極のように見えた。
埋め込まれた電極から伸びるワイヤーとチューブが、ストレッチャーの下で複雑に絡み合っていた。
生きているようには見えなかったが、死んでいるという確信もない。やはりこれはゾンビだろう。
異形のエイリアンたちは、キーボード付きのコンソールの前に群がっていた。
彼らはメッキのような、無機質な皮膚に覆われていた。
目は赤く輝き、口元は歯がなく、節穴のように見えた。
キーボードを弄るたびに、ゾンビの身体は激しく揺れ、手足も微かに動いた。
恐らく賦活を試みているんだ。死んでいるか、仮死状態にあるものを賦活させようとしているのだ。
させてたまるか。
僕たちは臆せず彼らの前に歩み出た。
僕と平石の姿を目にした彼らは、驚愕の表情を浮かべて後退した。
〈ここが本丸か。おぞましいな〉
僕は手話で平石に言った。
〈ああ、同感、同感〉
平石が答えた。
僕らは、手にしていた3Dマシンガンを構え、エイリアンたちに照準を合わせた。
彼らは慌ててゾンビを操る装置に手を伸ばした。
そうはさせるか。
その時、スクリーンに河口凛々子の姿が映った。
ビルの屋上らしい。
屋上で、手話通訳者は監視用ドローンを次々と金属バットで叩き壊していた。
「……あの人だ」
僕は思わず声を上げ、マシンガンのトリガーから指を離した。
彼女があそこで戦っている意味がわからず、頭が混乱してしまった。
〈何をしてるんだ、宇宙人を撃て〉
平石が手話で慌てて僕を促した。
しかし、なぜか僕の指はトリガーを引くのをためらっていた。
フロアでは、エイリアンたちがゾンビを賦活させるコンソールの操作を続けている。
ゾンビたちの身体の揺れも大きくなっていた。そろそろ動き出すかもしれない。
スクリーンには、凛々子の頭上を飛ぶドローンの影が映し出されていた。
〈屋上に行かなきゃ〉
僕は平石に向かって言った。
〈何が屋上だ。こいつらを始末しないと、彼女も危ないぞ!〉
凛々子はドローンの攻撃を巧みに避けつつ、バットで反撃を続けていた。

ドローンは武装こそしていないが、巣を守る蜂のように、彼女の身体をかすめては離れていく。
ドローンが肌に当たるたび、彼女が苦痛に顔を歪めるのが見えた。
彼女は耳を塞ぎながら、屋上の隅に追い詰められていく。
さぞかし耳障りな音波を発しているのだろう。
その時、僕はスクリーンとコンソールを操作するエイリアンの一匹が、妙に凛々子の映るスクリーンを目で追っていることに気づいた。
明らかにスクリーンの凛々子を目で追いながら操作している。
〈平石君、あいつだ! あいつを狙え〉
僕はエイリアンの一匹を指差し、コンソールの近くにいる平石に知らせた。
〈あいつが屋上のドローンを操って、凛々子さんを攻撃しているんだ〉
平石は僕の手話を読み取ると、狙いを定めてエイリアンを射撃した。
エイリアンは床に倒れた。それと同時に、スクリーン上のドローンも動きを止め、ホバリングを始めた。
しかし、その直後、別のエイリアンが僕の背後から襲いかかってきた。
鋭い爪が僕の首筋に食い込む。痛みと衝撃が全身を貫いた。
僕は堪らず床に倒れ込んだ。
右の首筋が裂けるように痛い。
後ろを振り返ると、エイリアンは手に長い鉤爪のような物を持ち、空いた手で僕の首に電極を刺そうとしていた。
平石が駆けつけ、至近距離からエイリアンを射撃した。
〈大丈夫か?〉
平石が駆け寄ってきて、僕の首の傷を確認した。
〈深くはない。皮膚が切れてるだけだ。血はすぐ止まる〉
彼はリュックサックからハンカチを取り出して、傷の位置に押し当てた。
倒れたエイリアンはピクリとも動かない。
僕は再びスクリーンに目をやった。
凛々子はドローンとの戦いを続けていた。
彼女は屋上で静止しているドローンを一機一機、金属バットで叩き壊していく。
平石が言った。
〈もう半分くらい片づいたのかな?〉
〈やはり屋上まで応援に行った方がいいんじゃないかな?〉
僕は平石に言った。平石はフロアを一瞥して、頷きかけた。
エイリアンは、フロアには倒れた2体しかいない。
戦意喪失し物陰に隠れているのか、それとも次の展開のために逃走したのか。
そしてまた、スクリーンに新たな映像が映し出された。
今度はビルの外からの映像だった。
何かの集団がビルの敷地を走り、建物に向かっている。
カメラがズームアップした。
集団の先頭にいたのは、船橋だった。
船橋たちレジスタンスのメンバーが武器を手に集結し、このビルに侵攻を開始したのだ。
集団の動きが止まり、ビルに向けてバズーカが発射された。
窓ガラスが爆発と共に割れ、壁が炎と煙に包まれていく。
屋上にはドローンが飛び、レジスタンスとの間で激しい戦闘が繰り広げられていた。
「船橋さん!」
僕は思わず声を漏らした。レジスタンスの姿に心が震えた。
〈助けに来てくれたんだ〉
平石が大きく頷きながら、僕に言った。
〈あの人は、やっぱり生きていたんだ〉
僕は指文字で〈ダイ・ハード〉と書いた。
平石は苦笑しつつ〈本当に、な〉と手話で同感を示した。
エイリアンたちはレジスタンスの攻撃に動揺したのか、物陰から姿を現し、仲間の遺体を放棄して逃げ出した。
僕と平石はすかさず追撃を行ったが、彼らの逃げ足は速かった。
フロアには死んだエイリアンと、ストレッチャーのゾンビの亡骸が残された。
再びスクリーンに目をやると、ドローンが次々と墜落してくる様子が映し出された。
恐らくエイリアンが操作を放棄したため、ドローンとコントロール部の接続が絶たれたのだろう。
凛々子は、次々と落下するドローンの残骸を見て呆然としていた。
彼女も、もう余力が尽きているはずだ。
平石が僕の手を引き、スクリーンを指さした。
〈そろそろ行こうか〉
二人は屋上へと向かった。
つづく

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