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船橋とレジスタンスの仲間たちは、先ほどの爆破で粉々になった集会所に向かった。
幾層にも積み重なった瓦礫は、まだ所々に煙を棚引かせていた。
そこには装甲で強化された大型バスが停車していた。
メンバーがバスに乗り込むと、ドーム型のスタジアムへと向かう段取りになっていた。
装甲車の重厚な扉が、これから始まる戦いの重みを物語っていた。
僕と平石は、河口凛々子の見えないところで、船橋に手話でコンタクトしていた。
船橋は僕らの手話を一瞥すると、気のない素振りで頷いた。
僕は船橋に話が通じたのか、少し不安になった。
平石は胸に手をやり〈大丈夫だ〉と僕に言った。
一行がバスに乗り込む前に、船橋はバスの運転手としばらく雑談していた。
船橋は、集団の中から河口凛々子を呼び出し、バスの横にあるトランクルームに連れていった。
そこに武器が積んであるらしい。さっき話していた武器を見せるのだろう。
船橋と凛々子を残して、一行は次々とバスに乗車した。
二人を残して、皆が乗車すると、なぜかバスのエンジンが空ぶかしを始めた。
バスのドアはまだ開いている。
船橋はスコープの付いている、ライフルタイプの銃を凛々子に手渡し、壊れた建物に向けて、スコープを覗くように凛々子に言った。
凛々子は何の疑いもなく、スコープを覗き込み銃を構えた。
「そうじゃない。もっと腰を落として」
船橋が凛々子にレクチャーしているのが見えた。
「銃身がブレてる。しっかり固定できるようスコープを合わせるんだ」
凛々子は腰を落とし、顔をしかめながらスコープを覗き込んだ。
次の瞬間、船橋は忍び足になり、少し離れると、凛々子の背後から猛ダッシュした。
同時にバスが発進した。ドアは開いたままだ。
ドアのステップに足を乗せると、船橋は息を切らしながら運転手に言った。
「エンジン全開で」
バスは咆哮を上げ、急発進した。物凄い加速で、河口凛々子を置き去りにした。
僕はバスの窓から、呆然と立ち尽くす凛々子に向かって手話で言った。
〈あなたを連れてはいけない。タキオくんがいるから〉
平石も手を振り、サヨナラを言った。
船橋も他のメンバーもサヨナラを言った。
凛々子は次第に小さくなり、やがてバスからは見えなくなった。
僕は船橋にお礼を言った。
〈まあ、誰だってそうするさ〉
船橋は照れくさそうに言った。まだ肩で息をしていた。
〈あんなダッシュをしたのは、30年ぶりだ〉
その後、車内のメンバーは、一言も発せず、それぞれの物思いにふけっていた。
30分後、隣町の屋根付き球場に着いた。
球場の外にある駐車場は閑散としていた。
バスが止まり、メンバーは全員下車した。
バスを降りた僕たちは、周囲の静けさに緊張感を募らせた。
トランクルームが開けられ、それぞれ船橋から武器を受け取った。
巨大なパラボラアンテナが、球場の真ん中にそびえ立っていた。その威圧的な姿は、見る者を圧倒しそうなくらい巨大だった。
船橋は、このアンテナを破壊することが、エイリアンの支配から人々を解放する最善の方法だと、メンバーに説明した。
船橋の指示で、僕たちはチームに分かれた。
平石と僕は、レジスタンスチームの先陣を切って進むことになった。
手話で簡単に作戦を確認し合い、互いの目を見て頷き合った。
次の瞬間、エイリアンの操るドローンが空に現れ、僕たちに接近してきた。
「ドローンだ!」船橋が叫んだ。〈物陰に隠れろ〉手話で皆にそう言った。
僕と平石は即座に装甲バスの横腹に駆け込んだ。
〈今度のやつは、何かでかいぞ〉平石が言った。〈下の方から何か出てるぞ〉
ドローンが近づくと、バスが小刻みに揺れた。顔を上げると、バスのボディに無数の穴ができていた。
僕は思わず声を上げ、慌てて手話した。〈逃げろ。機銃掃射が可能なタイプだ〉
僕らは全速力でバスを離れ、球場の外壁に逃げ込んだ。
他のメンバーも球場へ走ってきた。
球場の周囲には、車道が取り巻いていて、車道の下に歩道が設けられている立体的な箇所があった。
いわゆるアンダーパス型の立体交差だ。
ろうのメンバーたちは、申し合わせたように分散し、立体交差に逃げ込んだ。
僕らは、ドローンの攻撃を避けながら応戦した。
ドローンは偵察機と比べ、5倍くらいの大きさだった。
僕には聞こえなかったが、プロペラの音なんか、それなりにやかましいはずだ。
僕は補聴器の音量レベルを最大に上げた。
〈音、聞こえるかい?〉
平石が頭上を指差しながら僕に訊いた。
〈すげえ、音してる。でも今どこにいるのか、方向が分からないな〉
僕は首を傾げた。
〈あそこだよ〉
平石が指差した。
攻撃型ドローンは、目標を見失っているらしく、僕らが乗り捨てた装甲バスの上空をホバリングしていた。
〈でかいからかな? あいつ動きが遅いぞ〉
〈撃ち落とせるかい?〉
〈引きつければ、何とか〉
〈僕が引きつけよう〉
〈お、おい。待て〉
平石の制止を聞かずに、僕は装甲バスに向かって歩き出した。
ドローンの音が少しは聞こえるんだ。これは僕がやった方がいい。
平石の方が動体視力が優れてるしな。
僕は意を決して、装甲バスの方にダッシュした。
ドローンの目を引くために、できるだけ大きな動作で手を振りながら走った。
カメラが僕の動きを捉えたらしく、巨大な影が動き出し、ドローンが低空に降りてきた。
僕の心臓が激しく鼓動した。
100mまで距離を詰めたが、そこできびすを返し、高架の下へドローンを振り返りながら後退した。
ドローンの飛翔音が次第に大きくなる。
僕は堪らず球場に向かって駆け出した。
視界の端に平石がいるのを確認した。
〈これで撃てるか?〉僕は手話で平石に訊いた。彼は頷いて、アスファルトに跪き、3D銃を構えた。
補聴器の音は、飛翔音に加えて、ドローンの掃射音も混じってきた。
いかん、撃たれる。フルスピードで、高架に飛び込むんだ。
僕は心の中で叫び、立体交差点の下へと駆け込んだ。
ドローンは僕を追いかけるように、徐々に高度を下げていく。
ドローンの大ぶりの機体が、高架の下に入り込んだ。
その瞬間、待ち構えていた平石が、コンクリートの柱から3D銃でドローンを撃った。
強力な光が平石の上体を包み込んだ。
銃の衝撃波がドローンの装甲に到達した。が、ドローンはすぐには破壊されず、傾きながらもホバリングし攻撃を続けた。
「くそ、まだ動いてやがる!」
ドローンはバランスを崩しながらも反撃を止めなかった。
僕をロックオンしたまま、高架の下を飛び続けた。しかし、その動きは次第に鈍くなっていった。
〈今だ、みんな!〉
僕は大声と手話を使い、道路の上に潜んでいた他のメンバーに合図を送った。
彼らは一斉に橋から身を乗り出し、3D銃でドローンを掃射した。
次々と放たれる衝撃波がドローンの表面に直撃し、火花を散らせた。
「続けろ!」僕は叫んだ。彼らは全力で3D銃を撃ち続けた。
ドローンはついに耐えきれずに墜落した。
激しい爆発音が響き渡り、ドローンは炎上し始めた。
〈やった!〉平石が歓声のガッツポーズを上げた。
僕も思わず拳を握りしめた。
全員が手話で喜びを表現し合い、小さな勝利の喜びを共有した。
ドローンの残骸は燃え尽き、周囲には静寂が戻った。
僕たちは一瞬の安堵に浸った後、再び船橋の姿を目で探した。
〈これで一つ片づいた。次の作戦だ〉
船橋が手話で指示を出し、僕たちは再び動き始めた。
つづく
