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夜明けの森の静寂の中から、かすかな鳥のさえずりが聞こえ始めた。
白川の水面に映る空が徐々に明るさを増す中、武蔵春信は弓削神社の境内に佇んでいた。
彼の手には一本の横笛が握られており、静かに目を閉じ、深呼吸を繰り返していた。
武蔵は笛を唇に当て、ゆっくりと吹き始めた。
柔らかな音色が朝靄の立ち込める境内に広がり、鳥たちの声に溶け込んでいく。
彼の指が巧みに笛の穴を押さえ、澄んだ音が空気を震わせた。
笛を吹きながら、武蔵の心は静香への想いで満たされていった。
大黒屋で彼女が見せてくれた優しさ、気遣い、そして笑顔が次々と脳裏に浮かぶ。
武蔵は目を開け、遠くに見える赤岩ん淵の方向を見つめた。
笛の音が止み、武蔵は深く息を吐いた。
体の隅々まで気が通っているのを感じ、いつもより調子が良いことを確認する。
彼は静かに立ち上がり、腰に差した大刀と小刀の位置を確認した。
「静香さん、拙者が必ず救い出す」
武蔵は小さく呟いた。
彼は神社の鳥居をくぐり、白川の土手を歩き始めた。
朝露に濡れた草が足元でサクサクと音を立てる。
武蔵の歩調は次第に速くなり、やがて駆け足になった。
白川の水面が朝日に輝き始める頃には、猛然と河原を駆け抜けていた。
赤岩ん淵へと向かう彼の足取りは荒々しく、決意に満ちていた。
鳥たちの歌声が武蔵の背中を押すように、森全体が静香の救出を後押ししているかのようだった。
つづく
