ある日の夜、テレビでアニメを見ていると、突然部屋の中がまっくらになった。停電だった。だれかがぼくのそばにいた。

「きみはだれだい?」

「わたし?わたしはシンデレラっていうの」

ほくは思わずのけぞりそうになった。

「シンデレラって、さっきまでテレビに出てた人?」

「テレビって何なの?」

「あの箱のことさ。電気が入ると、あの中で絵や写真がうつって動き出すんだ」

シンデレラはふしぎそうにテレビを見た。

「電気って何?何もうつっていないわ」

「きみの時代のランプの油やたきぎのようなものさ。部屋を明るくしたり温かくしたりできるんだ。今、電気が止まっててテレビがうつらないけど、きみはさっきまで、あの中の映画の主人公だったんだよ」

「主人公?わたしはただのシンデレラ。だんろのそうじが似合ってるわ」

「でもあの後、王子と結婚するんだよ」

「まあ、すてき。信じられないわ」

「きっと停電が終われば、元の世界にもどれるはずさ」


やがて、電気がついた。

「明るいわ。これが電気なのね」

でもシンデレラはテレビの中にもどれなかった。ぼくは首をかしげた。物語が始まれば、シンデレラは元の世界にもどれると思ったのに。ぼくはシンデレラに言った。

「もっと強く帰りたいって思わなくちゃ」

「むりよ。いじめられてばかりいたのに」

そうか、ふつう帰りたいなんて思わないもんな。それでもなんとかしなくちゃ。ぼくはイケメンモデルがのっている雑誌を見せた。

「ほら、こんな王子が待っているんだぜ」

反応は今ひとつ。宝石や指輪のページも見せたけど、これも反応なし。シンデレラのおなかがグーッと鳴った。ぼくは大あわてでグルメのページをひらいた。

「お城じゃ、こんなごちそうをたらふく食えるんだぞ」

とたんにシンデレラはテレビの中にすいこまれ、アニメの世界にもどっていった。

ぼくは、花嫁が幸せになるのを見とどけると、あくびをしながらテレビを消した。

 

おわり



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