世界から少しずれた誰かの、声にならない叫び。ささやかな祈り

サイレント・レジスタンス 34 ゾンビ製造所

サイレント・レジスタンス 34 ゾンビ製造所

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34 

僕と平石は、立山の後ろを静かについて歩いていた。

立山はひたすら話し続けていた。

この男は昔からこうなのだ。相手が聞いていようが、いまいが、お構いなしだ。

僕たちは無表情で聞き流していた。

通路を歩いていると、立山は突然立ち止まり、小声で言った。

「これは珍しいな。俺もこんな光景は久しぶりだ。見てみろよ」

男の顎で示された方向を見ると、異様な光景が広がっていた。

通路の右側に、広々とした空間があった。

そこには、制服の警察官と自衛官が混ざり合った集団がいて、100人くらいが整然と隊列を組んで立っていた。

彼らはほとんど動かず、直立不動の姿勢を保っていた。

「もっと前へ行けよ。だが深呼吸は控えろ。ゾンビになるからな」と男は言い、僕たちを急かすように背中を押した。

な、何なのだ? ゾンビって。

僕たちが前に歩み出たタイミングで、アナウンスが聞こえてきた。

平石はスマホのアプリでアナウンスを読んでいた。

「参列者の皆さん、ゆっくりと前に進んでください」

集団が少し進むと、天井から透明な仕切りが降りてきた。

「見ろ、天井から白い煙が出てくるぞ」と男は得意げに言った。「あれがゾンビ化ウイルスだ」

僕は一瞬呆然としたが、すぐに我に返り、平石に手話で伝えた。

〈ゾンビウイルスらしい〉

平石は嫌そうな顔をした。僕だって嫌だ。

ガラスの壁の向こうでは、屈強な男たちが白い煙に包まれていた。

まるで古いコメディ映画のガス室のようだった。

ガラスの中の霧はやがて晴れた。霧が晴れると、中の男たちは重なり合うように倒れていた。

その空間の奥には、壁が切り取られ、暗闇が広がっていた。

5秒、10秒と時間が経つとともに、倒れていた男たちが動き出し、一人ずつ立ち上がり始めた。


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「お疲れさまでした。お帰りの際はお気をつけて」とアナウンスが流れ、男たちは暗闇に向かって歩き始めた。

元々良くなかった彼らの顔色は、さらに蒼白になっていた。

僕の元上司は、なぜかガラスの壁に近づこうとしていた。

何でだ? 危険だと知っているのに……。

僕は彼を止めようとしたが、平石が僕を引き留めた。

〈逃げよう。ここにいるのは危険だ〉

冷静に考えれば、その通りだ。俺たちもゾンビになっちまう。

僕と平石は通路を戻り、別の通路を見つけた。

前に進むと、置き去りにしたはずの元上司が後から追ってきた。

男は息を切らしつつ、尊大な口調で言った。

「おい、俺から離れるな。俺についてくれば、安全だからな」

その言葉を平石に手話で伝えたが、僕たちの目は疑念に満ちていた。

僕はふと思いついた疑問を口にした。

「さっき、アプリの話をしていましたよね?」

「ああ、欲しいか? 30万だよ」

「30万円ですか? そのアプリは何に使うんですか?」

「ここの施設や、他の場所にアクセスするためのコードが必要だろう?」

「それを使って、あなたは出入りしているんですか?」

「そうだな。特別に15万でどうだ?」

この男への侮蔑は頂点に達した。

〈こいつ、ウイルスに感染しているかも〉

平石に手話で伝えると、彼は気の毒そうに苦笑いした。

僕たちは腹立たしさと嫌悪感を感じながらも、何も言わずにいた。

「15万ですか。あいにく持ち合わせがないので」

僕はそう答えた。

立山は失笑した。こっちだって失笑してやる。

その後、三人は長い通路を急ぎ足で歩いた。

心なしか、立山との距離は開くようになった。

途中で警備中らしい自衛官に出会った。

立山は大げさに手を挙げて「巡視中ですか。ご苦労さまです」と会釈した。

自衛官はそれには反応せず、無言で通り過ぎた。

すれ違った後、立山は言った。

「あいつはザコキャラ。監視カメラを取り付けて歩かされてるだけさ」

つづく



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