世界から少しずれた誰かの、声にならない叫び。ささやかな祈り

スノーマンのねがいごと 1

スノーマンのねがいごと 1

1

その年の冬は、とてもさむい冬でした。

とっとこ山のふもとの村には、雪がたくさんつもっていました。

村には、親のいない子どもたちがくらすしせつがありました。二十人ほどの子どもたちが、みんないっしょにくらしています。

クリスマスの夜。

しせつでは、だんろのある大きなへやで、クリスマスのおいわいをしていました。

園長先生はサンタクロースのかっこうをして、みんなにプレゼントをくばっています。

子どもたちは、この日をずっと楽しみにしていました。

みんな、とてもうれしそうです。

けれども、ひとりだけ元気のない子がいました。

あきらという男の子です。

「妹のかぜがなおらないから、しんぱいなんだね」

園長先生がたずねました。

「もう五日もベッドでねているんです。いつになったらなおるのかなって、そればかり考えてしまって」

あきらは答えました。

「妹のそばに行って、楽しい話でもしてあげなさい」

園長先生はいいました。

あきらが妹のへやへ行くと、妹のエミはベッドの中でねていました。

少し顔色がよくありません。

「だいじょうぶかい? なにか、ぼくにできることはないかな?」

あきらがたずねると、エミはまどの外をゆびさしました。

「こんなに雪がつもっているんだもん。雪だるまが見たいな」

「そんなのおやすいご用さ」

あきらは答えました。

2

つぎの日の朝。

あきらは、しせつのにわに大きな雪だるまを作りました。小さな男の子が、ゴムでとぶおもちゃのヘリコプターをとばしていました。

ところが、ヘリコプターは木のえだにひっかかってしまいました。

男の子は、竹の長いほうきをもってきました。

ほうきをのばして、ヘリコプターをおとそうとします。

けれども、とどきません。

「その木にのぼって、とってみなよ」

だれかが男の子をひやかしました。

男の子は木を見あげました。

園長先生から、木のぼりはしないようにいわれています。

でも、どうしてもヘリコプターをとりたい男の子は、木にのぼることにしました。

二メートルくらいのぼったところで、きゅうにこわくなりました。

男の子は、そっと下を見ました。

思っていたより、ずっと高く見えます。

体がぶるぶるふるえて、手も足もうごかなくなってしまいました。

「わぁい、リョウスケのいくじなし!」

かけよってきた子どもたちが、はやしたてました。

リョウスケは木にしがみついたまま、なきたくなりました。

3

そのときです。

木にしがみついているリョウスケに、だれかがすっと両手をさし出しました。

「わたしの手につかまってごらんよ」

そこにいた子どもたちは、

「あっ!」

と声をあげました。

にわに立っていた雪だるまが、むっくりと立ちあがって、リョウスケに話しかけているのです。

「あなたは、だれなの?」

リョウスケもびっくりして、雪だるまにたずねました。

「わたしは雪だるまのスノーマンさ。落ちつきがなくて、ときどき歩きだしてしまうんだ」

スノーマンはリョウスケをだきかかえて、木からおろしてあげました。

「ありがとう、スノーマン」

リョウスケはおれいをいいました。

でも、ヘリコプターはまだ木のえだにひっかかったままです。

「わるいけど、スノーマン。ぼく、あれをとらなくちゃいけないんだ。なにかいいほうほうはないかな?」

「きみにはむずかしいな。わたしがやってあげよう」

スノーマンは大きく体をふるわせました。

そして木のえだにむかって、

ぽこっ! ぽこっ! ぽこっ!

口から雪玉をふき出しました。

雪玉が木のえだにぶつかります。

すると、ヘリコプターがぽとんと雪の上に落ちてきました。

「すごいや、スノーマン!」

リョウスケが声をあげました。

そばにいた子どもたちも、いっせいに声をあげました。

4

あきらの妹のエミは、なかなか元気になりませんでした。

大きな雪だるまを作ってもらって、とてもよろこんでいたのですが、せきやねつが出て、まだ外には出られません。

その朝、あきらはけい太という男の子と、にわの雪かきをしていました。

けい太が、にわにぽつんと立っている雪だるまをゆびさしました。

「リョウスケのやつ、ヘリコプターを木にひっかけちゃってさ。あの雪だるまが、とってくれたっていってたよ」

「まさか。ゆめでも見たんじゃないのかい?」

あきらがいうと、けい太は口をとがらせました。

「でも、まわりにいた子たちも、同じことをいうんだ。雪だるまがむっくり立ちあがって、しゃべったんだってさ。スノーマンっていう名前らしいよ」

「そんなばかなことがあるもんか。きっと、だれかがじょうだんでいいだしたんだよ」

あきらはくすくすわらいながら、スコップで雪をかきました。

雪かきがおわりに近づいたころ、園長先生が通りかかりました。

あきらとけい太は、ぺこりとおじぎをしました。

「ああ、ごくろうさま。とても歩きやすくなったよ」

園長先生は、大きな雪だるまを見あげました。

「それにしても、あきら。ずいぶん大きな雪だるまを作ったなあ」

あきらは、おでこのあせをぬぐいました。

「これから、エミのくすりをもらいに行くんですか?」

「そうだよ。びょういんに行って、エミちゃんのくすりをもらってくる。でも、おいしゃさんは、にゅういんしたほうがいいっていうんだ」

「エミ、にゅういんはいやだっていってたよ」

「うん。みんなといっしょにいたいんだろうなあ」

園長先生は、少しこまった顔をしました。

そして、びょういんへむかって歩いていきました。

雪かきがおわると、あきらは雪だるまの前に立ちました。

さっきのけい太の話を、ふと思い出しました。

――この雪だるまが、本当にスノーマンだったら。

あきらは目をとじて、両手をあわせました。

そして、そっとねがいごとをしました。

「どうか、妹が早く元気になりますように」

つづく

にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へ 小説(純文学)ランキング



この記事をシェアする

記事一覧へ戻る

関連記事 Relation Entry