5
それからしばらくして、エミがまた熱を出しました。
さむい夜のことです。
園長先生と女の先生が、ろうかで話をしていました。
「こんなにさむいところにいるより、びょういんのあたたかいベッドで休んだほうがいいと思うんだけどなあ」
「ええ。そのほうがエミちゃんも、早く元気になると思います」
ふたりは、エミをにゅういんさせるかどうか、そうだんしているようです。
あきらは、ろうかのすみでその話を聞いていました。
エミは、にゅういんしたくないといっています。
でも、また熱が出てしまいました。
あきらは、しんぱいでたまりません。
そのとき、だれかがあきらのかたを、ぽんとたたきました。
ふりかえると、りょうりを作っているおばあさんが立っていました。
「エミちゃんが、しんぱいなんじゃね」
「うん……」
「あのスープが作れたらねえ。体がぽかぽかあたたまって、元気も出るんだけどねえ」
「あのスープって?」
あきらはたずねました。
それは、おばあさんがむかし教えてもらった、冬のとくべつなスープでした。
「でもね、ざいりょうをそろえるのが、たいへんなんじゃよ」
おばあさんはいいました。
ざいりょうは、どれもとっとこ山でとれるものばかりです。
森のいずみにいる魚。
雪の下にはえている、あかねのねっこ。
そして、とっとこ山のむこうにある「きのこの森」でしかとれない、きいろいきのこ。
「そのざいりょうをぼくがとってきたら、スープを作ってくれる?」
「もちろんじゃとも」
おばあさんは、うなずきました。
つぎの日。
まだ空がくらいうちに、あきらはこっそりしせつをぬけ出しました。
とっとこ山へ、スープのざいりょうをさがしに行くためです。
しせつのにわをぬけようとした、そのときでした。
むくっ。
にわの雪だるまが立ちあがりました。
そして、あきらのほうへ歩いてきます。
あきらはびっくりして、目をまるくしました。
「どこへ行くんだい?」
雪だるまがたずねました。
――けい太がいっていたのは、本当だったんだ。
「きみが、スノーマン?」
「そうさ」
「ほんとうに歩くんだなあ」
「だからいっただろ。わたしは落ちつきがないんだ」
あきらは、思わずわらってしまいました。
「ぼくは、きのこの森へ行くんだ」
「こんなに朝早くから?」
「妹のために、スープのざいりょうをさがしに行くのさ」
するとスノーマンは、うれしそうにいいました。
「わたしもいっしょに行っていいかい?」
「いいけど、きみにたすけてもらうことなんてないと思うよ」
スノーマンは頭をかきながら、少しこまった顔をしました。
「そういわずにさ。わたしだって、きみのねがいごとをかなえてあげたいって、ずっと思っていたんだぜ」
「どうして、ぼくのねがいごとを?」
「きみが、わたしを作ったんだろ?」
「そりゃ、ぼくが作ったけどさ」
「じゃまはしないから、いっしょに行ってもいいだろ?」
「もちろんいいとも。でも、雪だるまにおともしてもらうなんて、考えもしなかったなあ」
あきらは、にがわらいしながら頭をかきました。
でも本当は、ひとりで山へ行くのが、とても心ぼそかったのです。
こうして、あきらとスノーマンは、とっとこ山へむかって歩き出しました。
6
くらい森の中を歩いていくと、やがていずみにたどりつきました。
いずみには、こおりがびっしりとはっています。
あきらはそれを見て、ためいきをつきました。
「魚がほしいんだけど、これじゃつれないなあ」
こおりには、ところどころにわれ目があります。
その下を、つめたい水が流れていました。
するとスノーマンが、
「エッヘン!」
と大きなせきばらいをしました。
「むりなもんか。かれ木のえだを一本、もってきてごらん」
「木のえだで魚をつるの?」
「まあ、見てなって」
あきらは、足もとに落ちていたかれ木のえだをひろい、スノーマンにわたしました。
スノーマンは、そのえだをこおりのわれ目に入れました。
そして、ぐるぐるとかき回します。
「なにしてるの?」
「まあまあ」
しばらくして、スノーマンがえだを引きぬきました。
すると――。
「わっ!」
あきらは声をあげました。
えだの先に、こおりついた魚が五ひきもくっついていたのです。
「こんなもんで、どうだい?」
スノーマンは、とくいそうにいいました。
「すごいや! これだけあれば、じゅうぶんさ。ありがとう、スノーマン」
あきらは魚をひろいあつめました。
これで一つ目のざいりょうは、手に入りました。
ふたりは森のいずみをあとにして、広い野原へやってきました。
ここでは、あかねのねっこをさがさなければなりません。
ところが――。
野原は、まっ白な雪でおおわれています。
どこを見ても、雪、雪、雪。
草さえ見えません。
「これじゃ、見つからないよ」
あきらは、またためいきをつきました。
するとスノーマンがいいました。
「わるいけど、わたしの体をころがしてくれないかな?」
「えっ?」
スノーマンは、ごろんと雪の上にねころびました。
「さあ、ころがしてくれ」
あきらは、いわれたとおりにスノーマンの体をころがしました。
ごろごろ。
ごろごろ。
スノーマンがころがるたびに、野原の雪がどんどん体にくっついていきます。
「スノーマン、大きくなってるよ!」
ごろごろ。
ごろごろ。
「まだまだ!」
「ほんとうに、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ!」
とうとうスノーマンは、小さな山のように大きくなってしまいました。
そして野原を見ると――。
「あっ、雪がない!」
野原をおおっていた雪は、すっかりスノーマンの体にくっついていました。
草があらわれています。
あきらは草をかきわけました。
「あった!」
土の中から、あかねのねっこを見つけました。
一本、二本、三本。
たくさんあります。
「スノーマン! やくそうがこんなにとれたよ!」
あきらは、うれしそうにいいました。
「おやくに立てて、わたしもうれしいよ」
スノーマンは、大きくなったおなかをゆらしました。
そして、
「エッヘン!」
と、また大きなせきばらいをしました。
つづく
