11 ファットオーブ

ぼくらと先生はマーキュロ駅で汽車にのった。

この町には、昔、勇者マーキュロが住んでいたという伝説があるらしい。

ランディがそう言うし、先生だってそのことを知ってるみたいだ。

知らなかったのは、ぼくだけだ。

それはべつにいいけどさ。興味ないし…。

ぼくらは今、伝説の勇者の墓に、ハメット先生と一緒に向かっている。

ハメット先生は学校の先生なのに、学校に果物を山ほど持ってきたり、ナンパに挑戦しては、アイダ・クレストから逃げ回ったり、とにかく変わった先生だ。

それに最近はアパートにどろぼうが入って、熱を出して病気で入院したりしている。

おバカな生徒2名は毎日顔を出すし、なんだかたいへんな目に会ってるなぁ、とぼくは思っている。

いろいろと考えごとをしているうちに、汽車がマーキュロ自然公園に着いた。

 

マーキュロ自然公園は、山の中にあった。

汽車から降りると、ぼくらはすぐに森の中へ入っていった。

空気はすがすがしくて、鳥や虫の声が聞こえた。

公園へ着くと、ハメット先生はもうぜんと歩き出した。とても病人には見えなかった。

ぼくとランディは小走りになりながらあとをついていった。

 

マーキュロの墓は森の中にあった。

先生は墓を見つけると、かけ出していった。

マーキュロの墓は、四角の石板で作られていて「心やさしき勇者、ここにねむる」と書かれていた。

墓の横に、ぴかぴか光るものが落ちていた。

ぼくはそれを見つけて指さした。

「あれはなんだろう」

ランディがそばによってきて、とつぜんさけんだ。

「これは、ファット・オーブだよ、フィル。ムーアじいさんが言いつたえていた、ファット・オーブにまちがいない」

ハメット先生はオーブをひろいあげると、ぼくらにむかって言った。

「そうさ。これはファット・オーブなんだ。一年前にグレナダ島の岬からなくなっていたんだ」

ぼくはたずねた。

「でもどうしてここに転がっているの、先生」

「盗ぞくのしわざさ。岬から盗み出したんだ。でもこのオーブ使うのは、盗ぞくではだめなんだ。悪いことには使えないからね。オーブは自分の意志で盗ぞくの手から逃げ出し、行方不明になっていたんだ。前に交通事故から、おばあさんをすくったことがあっただろう」

ぼくらはうなずいた。

「あのニュースのせいで、この街に盗ぞくがやってきたんだ」

「どういうこと?」

今度はランディが聞いた。


「オーブのありかが分かったんで、取りかえしにきたのさ」

「なんで盗ぞくはオーブにこだわるんだろう?」

「このオーブが特別な力を持っているからさ。持ち主を勇者ファットマンに変身させる力だ」

「ファットマン?」

「そうだよ。大きなボールみたいな姿になって敵をたおすんだ」

「それはすごい」

ぼくは本気で感心した。

「たぶんあの事故では、このオーブがかってに、自分でファットマンに変身したんだ。おばあさんがトラックにひかれそうになったとき、オーブが光って大きなボールに変身したんだ」

「つまり、道をさまよってる途中で、オーブがおばあさんを助けたと」

「そういうことになるな。たまたま事故現場近くを転がっていたんだね」

ハメット先生は少しゆかいそうに言った。

「でもオーブ自身の変身能力じゃ、そこまでさ。悪とたたかうためには、勇者にふさわしい持ち主が必要なんだ」

「でも悪いことに使えないのだったら、どうして盗ぞくはこのオーブをほしがるんだろう?」

ぼくは聞いた。

「このオーブがじゃまだからさ。やつらが悪いことをしようとするたびに、勇者があらわれる。見てごらん。 オーブが光っているだろう。この町に盗ぞくがあらわれたので、きけんを知らせているんだ」

「今度の勇者はだれなの?」

ランディが聞いた。

「それにふさわしい人がまだ見つからないらしい。それでオーブは昔の勇者、マーキュロの墓までやってきたんだ。でもこの世にマーキュロはいない」

「先生ならどうだい。なにも戦士でなくったって、学校の先生でも変身できるんだろ」

ランディはハメット先生に言った。

ハメット先生は苦笑いした。

「わたしにできることといったら、このオーブをかくしておくことぐらいだね。事故現場で小さくなったオーブをひろったら、盗ぞくにアパートをあらされたんだ」

「本当に変身できないの」

「できないんだ。変身させるかどうかは、オーブが決めるらしい。 わたしには無理のようだ」

ぼくとランディはひどくがっかりした。

ぼくらが知るかぎり、この町でファットマンにふさわしいのは、ルイス・ハメットしかいないように思うんだけど。

本当に先生じゃだめなのかな…。

 

つづく

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