とっとこ山のむこうがわへ行くと、かきの木がたくさんならんでいる林がありました。


ここでは、りょうりのおばあさんからきいた、めずらしいきのこがとれるのです。


「あのきのこは、おてんとうさまがきらいでね。明るくなると木のふしにかくれてしまうんだよ。だから、くらいうちじゃないと、なかなかつみとれないんだよ」


あきらがくらいうちにしせつを出たのは、そのきのこをとるためでした。


きのこはたくさんかきの木にしげっていました。

きいろいかさのきのこです。

あきらはよろこんでかきの木にかけより、きのこに手をのばしました。

でも手をふれたとたん、きのこはすぐしぼんでしまいます。

あたりを見まわすと、少し明るくなってきたようです。


きのこのかさが小さくしぼんで、木のふしにかくれようとしています。


「いけない。夜明けが近いんだ、どうしようスノーマン」


スノーマンは、あきらにたずねました。


「きのこを手に入れれば、スープができるんだね?」


「そうさ、できるんだよ」


「妹さんも元気になるんだね?」


「元気になるさ。だから、どうしても手に入れなくっちゃ」


あきらは答えました。

スノーマンは少ししんみりとしていいました。


「これでおわかれになると思うけど、わたしもできるかぎりのことはやるつもりだよ」


スノーマンは大きくいきをすいこむと、いきおいよくいきをふき出しました。

ふたりの体のまわりにはたちまちふぶきがまきおこり、ふぶきは夜明けの明るさをすっかりすいこんで、あたりを夜に引きもどしてしまいました。


「早くきのこをつんでしまいなよ」


やみの中から声がしました。


あきらはおおいそぎでかきの木から、きのこをつみとりました。

かごいっぱいつんだとき、ふぶきがやみ、またあたりは明るくなってきました。

明るくなっても、かごの中のきのこはかごからきえたりしませんでした。


「おーい、スノーマン。きのこがとれたぞぉ」


あきらは大声でいいました。

スノーマンのへんじはありません。

もうどこにも、あの大きな雪だるまのすがたは見えませんでした。


「おーい、スノーマン。どこへ行ったんだぁ」


あきらはなんども大声でよびました。


「スノーマン。スノーマン」


やはりへんじはありませんでした。


あきらはひとりで山ほどのざいりょうをかかえて、とっとこ山をおりていきました。

 


あれほどはげしいふぶきがふきつけたというのに、その朝からまったく雪はふらなくなり、つもっていた雪もとけてしまいました。


スノーマンもいなくなりました。


「おわかれというのは、こういうことだったんだな」


あきらはぽつりとつぶやきました。


りょうりのおばあさんはさっそくうでをふるって、かぜによくきくスープを作ってくれました。

おかげで妹はすぐ元気になりました。

園長先生も、もうにゅういんしなくてもだいじょうぶだろうと、いってくれました。


ある日、あきらがだんろのそうじをしていると、にわのほうからだれかがよぶ声が聞こえました。


あきらはへんじをして、まどべに行きました。


「なんだい?けい太」


けい太は声をはずませていました。


「おおぃ、ちょっと外に出ないか?」


けい太はあきらをさそいました。あきらは、だめだとことわりました。


「今、だんろのそうじをしてるんだ。さぼったら、園長先生にしかられちまう」


「少しだけだけど、雪がのこっていたんだ。いっしょにこないか?」


「雪だって?」


「そうさ。雪だるまが作れそうだぞ」


けい太がそういうと、あきらは思わず外へとび出してしまいました。


『もういちどスノーマンに会えるかもしれない』


あきらはけい太の後ろから走ってついていきました。

なんだか、むねがわくわくしてきました。

雪はしせつのうらのおかの上に、少しだけのこっていました。

 


できあがった雪だるまは、とても小さくて、少しどろがまじってよごれていました。


それでも、声をかけると、きちんとへんじがかえってきました。

あきらとけい太は顔を見あわせて、いきをのみました。


あきらは雪だるまに話しかけました。


「スノーマン。スノーマンなんだね?」


「そうさ。また会えてうれしいよ。妹さんは元気になったかい?」


「うん、おかげさまでね」


「そりゃよかった。せっかくこうして作ってもらってわるいけど、わたしはもうきみたちに何もしてあげられないんだ」


「ごめんよ。ぼくをたすけたせいで、きみのふしぎなカがなくなっちゃったんだね」


「いや、もともときみがわたしにいのちをあたえたんだ。だから、きみのおやくに立ててとてもうれしいよ」


たいようが雲のすきまから顔を出し、おかの上をてらしだしました。

スノーマンの体はみるみるうちにとけていきます。


あきらはそのすがたを見て、かなしくなってきました。


「ねえ、スノーマンには『ねがいごと』がないの?あったら、いって」


スノーマンは小さなせきばらいをして答えました。


「きみたちが元気にしあわせにしてくれていたら、わたしはもう何もいうことはないよ」


たいようの日ざしが強くなり、外はすっかりあたたかくなりました。

とっとこ山にも春がおとずれようとしていました。


雪だるまはとけてしまい、じめんにすいこまれてしまいました。

 

10


つぎの年のクリスマスになると、しせつの子どもたちは力をあわせて、大きな雪だるまを作りました。

あきらは雪だるまの前に立って、大声でスノーマンの名前をよびました。


「おや、きみたち!」


スノーマンはびっくりしました。

子どもたちの顔をながめているうち、なみだがあふれてきました。


「いったいだれから、こんなわたしのささやかなねがいごとを聞きだしたんだい?」


「だれにも聞きはしないさ。ぼくらもあなたと同じことを考えていたんだ。もういちど会いたいってね」


あきらはいいました。


でも今年の冬は、だれも雪だるまにねがいごとをしませんでした。

なぜなら、ねがいごとをすれば、スノーマンはいなくなってしまうと思ったからです。


その冬のスノーマンは、ふつうの雪だるまと同じように、子どもたちの元気なすがたをながめて、長い冬をのんびりとすごしました。

 

                 おわり



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