7
とっとこ山のむこうがわへ行くと、かきの木がたくさんならんでいる林がありました。
ここでは、りょうりのおばあさんからきいた、めずらしいきのこがとれるのです。
「あのきのこは、おてんとうさまがきらいでね。明るくなると木のふしにかくれてしまうんだよ。だから、くらいうちじゃないと、なかなかつみとれないんだよ」
あきらがくらいうちにしせつを出たのは、そのきのこをとるためでした。
きのこはたくさんかきの木にしげっていました。
きいろいかさのきのこです。
あきらはよろこんでかきの木にかけより、きのこに手をのばしました。
でも手をふれたとたん、きのこはすぐしぼんでしまいます。
あたりを見まわすと、少し明るくなってきたようです。
きのこのかさが小さくしぼんで、木のふしにかくれようとしています。
「いけない。夜明けが近いんだ、どうしようスノーマン」
スノーマンは、あきらにたずねました。
「きのこを手に入れれば、スープができるんだね?」
「そうさ、できるんだよ」
「妹さんも元気になるんだね?」
「元気になるさ。だから、どうしても手に入れなくっちゃ」
あきらは答えました。
スノーマンは少ししんみりとしていいました。
「これでおわかれになると思うけど、わたしもできるかぎりのことはやるつもりだよ」
スノーマンは大きくいきをすいこむと、いきおいよくいきをふき出しました。
ふたりの体のまわりにはたちまちふぶきがまきおこり、ふぶきは夜明けの明るさをすっかりすいこんで、あたりを夜に引きもどしてしまいました。
「早くきのこをつんでしまいなよ」
やみの中から声がしました。
あきらはおおいそぎでかきの木から、きのこをつみとりました。
かごいっぱいつんだとき、ふぶきがやみ、またあたりは明るくなってきました。
明るくなっても、かごの中のきのこはかごからきえたりしませんでした。
「おーい、スノーマン。きのこがとれたぞぉ」
あきらは大声でいいました。
スノーマンのへんじはありません。
もうどこにも、あの大きな雪だるまのすがたは見えませんでした。
「おーい、スノーマン。どこへ行ったんだぁ」
あきらはなんども大声でよびました。
「スノーマン。スノーマン」
やはりへんじはありませんでした。
あきらはひとりで山ほどのざいりょうをかかえて、とっとこ山をおりていきました。
8
あれほどはげしいふぶきがふきつけたというのに、その朝からまったく雪はふらなくなり、つもっていた雪もとけてしまいました。
スノーマンもいなくなりました。
「おわかれというのは、こういうことだったんだな」
あきらはぽつりとつぶやきました。
りょうりのおばあさんはさっそくうでをふるって、かぜによくきくスープを作ってくれました。
おかげで妹はすぐ元気になりました。
園長先生も、もうにゅういんしなくてもだいじょうぶだろうと、いってくれました。
ある日、あきらがだんろのそうじをしていると、にわのほうからだれかがよぶ声が聞こえました。
あきらはへんじをして、まどべに行きました。
「なんだい?けい太」
けい太は声をはずませていました。
「おおぃ、ちょっと外に出ないか?」
けい太はあきらをさそいました。あきらは、だめだとことわりました。
「今、だんろのそうじをしてるんだ。さぼったら、園長先生にしかられちまう」
「少しだけだけど、雪がのこっていたんだ。いっしょにこないか?」
「雪だって?」
「そうさ。雪だるまが作れそうだぞ」
けい太がそういうと、あきらは思わず外へとび出してしまいました。
『もういちどスノーマンに会えるかもしれない』
あきらはけい太の後ろから走ってついていきました。
なんだか、むねがわくわくしてきました。
雪はしせつのうらのおかの上に、少しだけのこっていました。
9
できあがった雪だるまは、とても小さくて、少しどろがまじってよごれていました。
それでも、声をかけると、きちんとへんじがかえってきました。
あきらとけい太は顔を見あわせて、いきをのみました。
あきらは雪だるまに話しかけました。
「スノーマン。スノーマンなんだね?」
「そうさ。また会えてうれしいよ。妹さんは元気になったかい?」
「うん、おかげさまでね」
「そりゃよかった。せっかくこうして作ってもらってわるいけど、わたしはもうきみたちに何もしてあげられないんだ」
「ごめんよ。ぼくをたすけたせいで、きみのふしぎなカがなくなっちゃったんだね」
「いや、もともときみがわたしにいのちをあたえたんだ。だから、きみのおやくに立ててとてもうれしいよ」
たいようが雲のすきまから顔を出し、おかの上をてらしだしました。
スノーマンの体はみるみるうちにとけていきます。
あきらはそのすがたを見て、かなしくなってきました。
「ねえ、スノーマンには『ねがいごと』がないの?あったら、いって」
スノーマンは小さなせきばらいをして答えました。
「きみたちが元気にしあわせにしてくれていたら、わたしはもう何もいうことはないよ」
たいようの日ざしが強くなり、外はすっかりあたたかくなりました。
とっとこ山にも春がおとずれようとしていました。
雪だるまはとけてしまい、じめんにすいこまれてしまいました。
10
つぎの年のクリスマスになると、しせつの子どもたちは力をあわせて、大きな雪だるまを作りました。
あきらは雪だるまの前に立って、大声でスノーマンの名前をよびました。
「おや、きみたち!」
スノーマンはびっくりしました。
子どもたちの顔をながめているうち、なみだがあふれてきました。
「いったいだれから、こんなわたしのささやかなねがいごとを聞きだしたんだい?」
「だれにも聞きはしないさ。ぼくらもあなたと同じことを考えていたんだ。もういちど会いたいってね」
あきらはいいました。
でも今年の冬は、だれも雪だるまにねがいごとをしませんでした。
なぜなら、ねがいごとをすれば、スノーマンはいなくなってしまうと思ったからです。
その冬のスノーマンは、ふつうの雪だるまと同じように、子どもたちの元気なすがたをながめて、長い冬をのんびりとすごしました。
おわり
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