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タント・ピエールはサレド国で尊敬されている大臣でした。
国の未来を担う重要な使命を果たすため、彼はある日、大きな船に乗り込みました。
遠い彼方の国と国交を結ぶという使命を果たすためにです。
「タント様、風がいいですね。この航海もきっと順調にいくでしょう」
船長がにこやかに言いました。
タントは笑顔で頷きました。
「ああ、サレド国のために、この航海を成功させねばならん」
最初のうちは、航海は穏やかでした。
青い空、輝く太陽、そして静かな海。
船の上では乗組員たちが陽気に働いていました。
しかし、ある夜のことです。空が暗くなり、冷たい風が吹き始めました。
やがて波が高くなり、船は大きく揺れ始めました。
「タント様、大変です!空が急に荒れてきました」
副船長が慌てて報告に来ました。
そのとき、船に同行していた占い師が急いでタントのもとに駆け寄りました。
「タント様、危険です。この嵐はただの嵐ではありません。私の占いによれば、何か大きな災いが起こる予兆です」
タントは少し考え込みましたが、やがて力強い声で答えました。
「占い師よ、君の忠告はありがたい。しかし、我々の使命は国の未来を左右するものだ。この航海を諦めるわけにはいかない」
船長も大臣の言葉に力を得たように、乗組員たちを鼓舞しました。
「皆、タント様が信じてくださっている!この嵐を乗り越えよう!」
しかし、嵐はどんどん激しくなっていきました。
強風が帆を引き裂き、巨大な波が船を襲います。
乗組員たちは必死でロープを引き、船を安定させようとしましたが、自然の力はあまりにも強大でした。
「タント様!船が持ちません!」
副船長が叫びます。タントは冷静さを失わず、声を張り上げました。
「全員、命を守ることを最優先にするのだ!救命具を準備せよ!」
乗組員たちは必死に指示に従いましたが、巨大な波が船を襲い、ついに船は大きく傾き始めました。
そのとき、タントは近くにいた若い船員を見つけ、肩を叩きました。
「君は若い。生き延びてこの航海のことを語り継いでくれ」
若い船員は涙を浮かべながら叫びました。
「タント様も一緒に!」
タントは微笑みました。
「私にはまだやるべきことがある」
その直後、巨大な波が船を呑み込みました。
タントは最後まで冷静でいようと努め、仲間たちを守るために尽力しましたが、船は深い海の底へと沈んでいきました。
嵐が過ぎ去った後、タントは砂浜に打ち上げられていました。
彼の目は空を見上げ、薄い雲間から光が差し込むのを見つめていました。
しかし、何かが違っていました。
耳を澄ませても波の音や風の音が聞こえないのです。
「…音が、しない」
タントはゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡しました。
船はどこにも見当たらず、自分が生き延びたのだという実感だけが、静けさとともに胸を満たしました。
聴覚を失った現実に動揺しながらも、タントは自分の使命を忘れませんでした。
彼は再び歩き出しました。
この島で何が待ち受けているのかを知るために。
これが、タント・ピエールの新たな冒険の始まりだったのです。
つづく
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