3 困ったクラスメイト

ぼくは友だちのランディと、日曜日にハメット先生の家に行ってきたんだ。

遊びにきてもいいっていっていたから…お言葉に甘えて。

先生は、ぼくの家からあまりはなれていないアパートでくらしていた。

 

アパートの名前は「デビット・ハイツ」。

アパートの持ちぬしの名前だって。

住宅がいの大きな通りにあるんだ。

通りから見たアパートは、とても小さい感じがしたんだけど、部屋が六つしかないんだからしかたがない。

ハメット先生は、そのアパートの二階に住んでいた。

 

呼びりんをならすと、ハメット先生は眠そうな顔で、ドアを開けた。

もう午前十時だというのに、まだ寝ていたんだ。

「やあ、君たちはぼくのクラスの子だよね、たしかフィルとランディだね」

先生はニッコリ笑って中へ手まねいた。

ぼくたちは部屋の中へ入っていった。

 

ハメット先生は、とてもキレイ好きだった。

キッチンはキレイにかたづいていたし、床にはゴミひとつなかった。

「お嫁さんはもらわないの」

ランディが失礼なことをたずねた。

先生はずっこけながら、笑いだした。

「もらわないわけじゃないんだ。 お嫁さんにきてくれる人がいないんだ」

「どうして」

またランディが聞いた。

「女の子を追いかけたりしないからさ」

ハメット先生はコーヒーを入れながら、ぼくたちの顔をながめていた。

コーヒーの香りがしてきた。

ぼくとランディは、ダイニングテーブルで待っていた。

「飲んでいいよ」

ぼくたちはコーヒーを飲んだ。にがくって飲めたものじゃない。

「そうか、砂糖を入れなきゃ飲めないな」

先生はいつも砂糖ぬきで飲んでいるのだそうだ。

でもぼくたちには無理だ。

まるで墨汁(ぼくじゅう)を飲んでいるみたいだ。飲んだことないけど。

 

しばらくして、ランディのやつったら、またまた先生をこまらせるようなことを言いだした。

「ねぇ、ハメット先生、お嫁さんをもらいなよ。やっぱりナンパしなくちゃダメだよ」

先生はコーヒーをふきだした。ぼくだってふきだした。

ああ、ランディのバカやろ。

「うーん、ナンパっていうと、あの駅の通りで女の子を引っかけるやつだろ」


ハメット先生は言った。

「べつに駅の通りでなくってもいいけど」

ランディは言った。

ぼくはマジメに先生と話をするつもりだったんだけど、ランディのやつったら、ばかな話ばかりするんだ。

ぼくはランディにいらだって言った。

「じゃあ、どこで女の子を見つけるんだよ」

「そうだなぁ、図書館とか、カフェとか、スーパーとか」

ランディは適当に言った。どこまでも適当すぎるやつだ。

「図書館とかカフェとかスーパーとか、そんなところで声をかけるのは変じゃないか」

ハメット先生は頭をかしげて、首をふった。

「変じゃないよぉ。自然に話しかければいいんだよ。たとえば、本の感想とか、コーヒーのおすすめとか、レシピのアドバイスとか」

ランディは言った。

「そんなこと言っても、ぼくは女の子に話しかけるのが苦手なんだよ。どうやって話を始めればいいのかわからないし、どうやって話を続ければいいのかわからないし」

ハメット先生はため息をついた。

「そういうときは、笑顔であいさつして、自分の名前を言って、相手の名前を聞くんだよ。それから、共通の話題を見つけるんだよ。たとえば、天気とか、趣味とか、仕事とかさ」

ランディは得意げに言った。それじゃ、まるで不審者じゃないか…。

「それでも緊張するんだよ。女の子に興味があるってバレたらどうしようとか、断られたらどうしようとか、考えちゃうんだよ」

ハメット先生は言った。どこまでも正直な人だ。

「そんなこと考えてるからダメなんだよ。女の子も人間だよ。普通に話せばいいんだよ。失敗しても気にしないで次に行けばいいんだよ」

ランディはこぶしをにぎりしめながら力説した。なんとなくランディの将来が心配になってきた。

「でもねぇ…図書館とかカフェはちょっと」

ハメット先生は何かを言いかけて、コーヒーを飲みほし、すくっと立ち上がった。

「君たち、一緒に来てくれるんだろ?」

つづく

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