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タントがクリオ少年の家族に助けられてから、何日かが経ちました。
その間に、タントは体力を取り戻しましたが、嵐で遭難した際の影響で、完全に聴力を失っていました。
指で振動を感じたり、読唇を試みたりしながら、新しい生活に少しずつ適応していきました。
ある朝、タントは家の外に出て、島の美しい景色を眺めていました。
青い海、緑の山々、そして忙しそうに働く島の人々の姿が目に映ります。
「この島で、私にできることは何だろう?」
タントは心の中でつぶやきました。
そのとき、クリオ少年がやってきて、大きな身振り手振りで言いました。
「タントおじさん!みんなで新しい橋を作ってるんだ。おじさんも手伝ってくれる?」
タントは少年の手振りと表情から意味を読み取り、心を動かされました。
「橋を作るのか。素晴らしいね。私も力になりたい」
こうして、タントは地元の橋の建設作業に加わることにしました。
タントが最初に現場に来た日は、作業員たちの間に戸惑いと好奇心が混じっていました。
タントはクリオの父さんのお下がりのシャツとズボンを着ていました。
クリオの父さんは恰幅が良いので、タントにはブカブカでした。
それに耳が聴こえないので、何度も聞き返しをします。
「本当に大丈夫だろうか?」
現場の人たちは、心配そうにタントを迎え入れました。
彼の聴覚障害に対する理解と配慮が必要だと感じた作業員たちは、ジェスチャーや筆談、身振りでコミュニケーションを取ろうと努めました。
最初は他の作業員と同じように、岩を運んだり、木材を整えたりする単純な仕事から始めました。
クリオ少年の父親も一緒に働き、手で指し示しながら説明すると、タントは力強くうなずきました。
「わかりました」
タントの几帳面で真面目な仕事ぶりは、すぐに他の作業員たちの目に留まりました。

彼の聴覚に制限があっても、その仕事への集中力と技能は誰もが認めるものでした。
休憩時間には、タントは黒板やノートを使って他の作業員とコミュニケーションを取りました。
彼の明るく前向きな態度は、言葉の壁を越えて人々の心に響きました。
クリオ少年は、タントと意思疎通するのが得意になり、筆談や身振りを使って一緒に働くことを楽しんでいました。
「タントおじさん、この橋が完成すれば、島の人たちをつなぐんだね!」
クリオ少年がジェスチャーで伝えると、タントは優しく微笑みました。
「そうだ。橋は道路以上のもの。それは人々の心をつなぐものなんだ」
数週間後、橋の建設は大詰めを迎えました。
タントの献身的な働きは、チームの団結力を高め、みんなの心に希望と勇気を与えていました。
橋が完成すると、島の人々は感動と喜びに包まれました。
タントの存在は、障害が人の可能性を制限するものではないことを、いろんな人に示していたのです。
クリオ少年が手話で「タントおじさん、すごいよ!」と伝えると、タントは穏やかにうなずきました。
「この橋、きっとみんなにとって大切なものになるね!」
「そうだね。この橋が、みんなの未来をつないでくれることを願っているよ」
島の人々に囲まれながら、タントはこの島で過ごした日々を心から感謝しました。
そして、新しい道が開かれるように、別の町で行われる新たな橋の建設へ、また次の一歩を踏み出すことを決意したのです。
つづく
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