国王の目はきらきらと輝いていました。

その瞳には、長い間失われていた希望の光が宿っていました。

「タント、君のおかげだ」

国王は感謝の言葉を口にすると、タントの肩に手を置きました。

「アラアラ山の化け物を退治してくれたことで、何世代にもわたって続いていた民族同士の争いに、ようやく終止符が打てそうだ」

タントはただ微笑み、頭を下げるだけでした。

彼の耳には国王の声は届きませんでしたが、その表情から感謝の気持ちが伝わってきました。

その夜、城の大広間では盛大なお祝いの宴が開かれました。

高い天井から下がる巨大なシャンデリアが部屋全体を明るく照らし、壁には色鮮やかなタペストリーが飾られています。

宴には民族の違いを超えて、大勢の島民たちが集まっていました。

「タントさま、乾杯を!」

杯を掲げて声をかける大臣や兵士たち。笛や太鼓の音色が大広間に響き渡り、リズムに合わせて人々は踊ったり歌ったりしています。

子どもたちは嬉しそうに走り回り、老人たちは昔話に花を咲かせていました。

長いテーブルには、アラアラ島の海の幸と山の幸を使った豪華な料理が山盛りに並べられていました。

焼きたてのパンや肉料理からは湯気が立ち、色とりどりの果物や甘いお菓子がテーブルを彩ります。そのにおいだけでお腹がいっぱいになりそうでした。

「タントさま、これはぜひ召し上がってください!」と給仕の少女が笑顔で差し出した皿には、島の名物である青い魚のスープが入っていました。

タントは少女にお礼を言いながらも、大広間の片隅へと足を運びました。彼は窓辺に立ち、外の夜空を見上げています。

周囲の笑顔や歓声を目にしながらも、耳を失ったことで全く音のない世界の中にいるタントは、どこか遠い場所にいるような感覚に囚われていました。

彼の表情には疲労の色が浮かび、目には少しの寂しさが宿っています。

そんなタントに、白髪で背の小さな占い師、ヨシュアが静かに近づいてきました。

ヨシュアはいつも優しい目をしていて、深いしわの刻まれた顔は知恵を感じさせます。

話すときはおじいさんのように穏やかで、島の歴史を知る貴重な存在でした。

ヨシュアはタントの視界に入るように立ち、年老いた手で身振りを交えながら伝えました。

「タント、重要なことがある。危険が迫っている」

タントは驚いてヨシュアを見つめました。

祝宴の場にそぐわない真剣な表情にタントも緊張感を覚えます。

「どういうことですか?」

タントは口の動きを読み取れるよう、ヨシュアの顔をじっと見つめました。

ヨシュアは周囲を確認すると、さらに身振りを続けました。

彼の手は波のように動き、そして沈むように下に向かいます。

「近いうちに大きな嵐がやってきて、アラアラ島が海に沈むかもしれない。水晶にそう映った」

タントは息を飲みました。

先ほどまでの祝宴の高揚感が一瞬で消え去り、重い責任感が彼の肩に降りかかりました。

「いつ頃ですか?どれくらいの時間がありますか?」

タントは切迫した様子で尋ねます。

「一ヶ月、早ければ三週間後」

ヨシュアは指を三本立てて示しました。

「私の予言が外れることを祈るが…」

タントは決意の表情を浮かべ、すぐに国王に知らせる必要があると感じました。

宴の真っ最中にもかかわらず、彼は人ごみをかき分けて国王の元へ向かいます。

タントの異変に気づいた国王は宴の喧騒から少し離れた場所で彼を迎え、すぐに話を聞きました。

タントがヨシュアからの予言を伝えると、国王の表情が一変します。

「アラアラ島が沈む?」


国王は声を低くして、近くにいた数人の大臣たちを呼び寄せました。

タントの言葉を、大臣たちにも聞こえるよう声に出して伝えます。

「島が沈む?そんな馬鹿な!それは確かな情報なのか?」

一人の大臣が驚愕の表情で言います。彼の手に持った杯から酒がこぼれ落ちました。

国王は大臣の肩に手を置き、落ち着かせるように言いました。

「ヨシュアの予言はこれまで何度も当たっている。不安を煽るつもりはないが、今は慎重に行動しなければならない」

隣で立っていた女性の大臣が口を開きました。

「島民たちはどうすれば…」

彼女の目には深い憂いが浮かんでいます。

「すぐに会議を開こう」

国王は決断を下しました。

「タント、お疲れだろうが、君も来てくれ。君の冷静な判断力が必要だ」

宴の喧騒と明るい音楽を背に、タントは国王と大臣たちとともに会議室へと向かいました。

会議室では夜遅くまで議論が続きました。

窓の外では祝宴の余韻が続いていましたが、室内には緊張感が漂っています。

テーブルには島の地図が広げられ、大臣たちがそれぞれの意見を述べていました。

タントは、失った聴力を補うように一層鋭く状況を観察し、時折紙に書いて自分の意見をしっかりと伝えます。

もちろんこの時も書記係を呼んで文字による情報を活用しました。

「もう時間がありません」

タントは立ち上がり、皆の注目を集めました。

「嵐が来る前に島民を安全な場所へ避難させる準備を始めましょう。そのためには大きな船が必要です」

「高い山に避難では駄目なのかな?」

年配の大臣が眉をひそめて尋ねました。

ヨシュアが静かに首を横に振ります。

「途方もない高波が押し寄せます。この島が一時的に海面下に沈む様子が水晶に映りました。山頂でさえ危険です」

「やはり船だな」

国王は重々しく頷きました。

「避難用の大きな船を建造するしかない」

会議室の誰かが尋ねました。

「五千人もの島民を船で?」

「何隻かに分ける必要があるな」

他の誰かが答えました。

「確かにそれが最善策だ。しかし、そんな短期間で船を建造することができるのか?」

別の大臣が心配そうに言いました。彼の手には汗がにじんでいます。

タントはテーブルを強く叩き、全員の視線を集めました。

「私が指揮を取ります。島中の木材を集め、すべての大工と船大工を集めましょう。漁師の知恵も必要です。皆で力を合わせれば、必ず間に合います!」

タントの力強い言葉と決意に満ちた眼差しに、会議室の空気が少し明るくなりました。

国王は立ち上がり、タントの肩を握りました。

「タント、頼むぞ。君が先頭に立って指揮を執ってくれ。私も全力で支援する」

「でも、島民たちにどう伝えれば…」

女性の大臣が心配そうに言いました。

「国民にパニックが起きるかもしれません」

国王は少し考え込んだ後、静かに言いました。

「真実を伝えよう。恐怖を与えるためではなく、力を合わせるために。アラアラ島の民は強い。きっと団結して困難に立ち向かってくれるはずだ」

会議は夜明け前まで続き、詳細な避難計画が立てられました。

タントは一晩中身体を休めることなく、計画を練り上げていきました。

 

つづく

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