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タントは船がほぼ完成すると、次は島民の避難を指揮する重要な役目を担うことになりました。

しかし、耳が聞こえないタントにとって、大勢の人々に指示を伝えるのは簡単なことではありませんでした。

迫り来る嵐の前触れに風は刻一刻と強まり、避難用の船は四隻できあがっていたものの、多くの島民が乗り込むための甲板や帆を作る材料が足りていなかったのです。

作業場には不安の空気が漂い始めていました。

ベテランの造船技術者がタントに向かって両手を広げ、困った表情でジェスチャーをします。

「このままでは間に合わないかもしれない…」

タントはその言葉を理解すると、一度作業の手を止め、大きく深呼吸をしました。

そして、周りにいる造船工たちの視線を集め、力強い表情と明確なジェスチャーで語りかけました。

「みんな、よく聞いてほしい。今がこの危機を乗り越える最も重要な時だ。この嵐から生き延びるためには、私たち一人ひとりの力を合わせるしかない。家族や友達、そして私たち全員の命を守るために、最後まであきらめないでほしい」

タントの真剣なメッセージに、作業員たちは顔を上げました。

彼の目には揺るぎない決意が宿り、その表情と手の動きには人々の心を動かす不思議な力がありました。

若い作業員の一人が、恐る恐る手を挙げて身振りと共に不安そうに伝えました。

「でも、船を完成させるための木材が足りないんです…」

タントは優しく頷くと、近くにあった紙に素早く図を描きながら提案しました。

「ならば、みんなで手分けして近くの森を探してみよう。この島にはまだ使える木が残っているはずだ。急いで材料を集めるんだ」

別の職人が首を横に振りながら指摘します。

「生木を使うと、乾燥していないから船体が歪んだり割れたりする危険があります」

タントは一瞬考え込むと、目を輝かせて答えました。

「だったら島中の廃屋を解体して、その材木を船に使おう!」

その瞬間、作業員たちの表情が変わり、動き出しました。

タントは自ら先頭に立ち、手書きの地図を片手に森の中を進みます。

無人になった家を見つけると、近くの住民たちと力を合わせて使える木材を運び出しました。

「こっちにも使える木材があるぞ!」

「この梁なら十分使えそうだ!」

島民たちが声を掛け合う音はタントには聞こえませんが、作業員たちの生き生きとした表情や力強い身振りが、作業の順調な進捗を物語っていました。

夜になり、さらに風が強まる中でも、作業は休むことなく続きました。


タントは一人ひとりの働きを細かく見守りながら、紙とペンや簡潔なジェスチャーで的確な指示を出します。

「ここの板をもっとしっかり固定してくれ。次の大波が来たら壊れてしまうかもしれない」

「わかりました、タントさん!」

年配の職人たちも、若きタントの冷静な判断と行動力に心を打たれ、疲れた体に鞭打って懸命に作業を続けていました。

「あんなに若いのに、冷静で頼もしいなんて、本当に大したものだ…」

「その通りだ。タントがいなければ、私たちはどうなっていたことか」

次第に船の形がはっきりと見えてくると、人々の希望も膨らんでいきました。

嵐の到来までの時間はわずかしか残されていませんでしたが、島民たちは互いに励まし合いながら、休む間もなく働き続けました。

やがて、東の空が明るみ始めた頃、四隻目の船の出航準備がついに整いました。

作業員たちは拳を高く上げ、笑顔と共に歓声を上げます。

「やったぞ!これでみんなを無事に避難させられる!」

タントは疲労の色が濃い顔に優しい微笑みを浮かべながら、手話で応えました。

「まだこれは始まりに過ぎない。次は船に必要な物資を運び込まなければ」

その後も作業は続き、嵐が島に到達する直前、四隻すべての船が完成しました。

人々は秩序正しく船に乗り込み、荒れ狂う海を避けて島を離れることができたのです。

嵐が過ぎ去った後、タントは静かになった海を見つめながら、誰にも聞こえない声でつぶやきました。

「各自が持ち込めるものは必要最低限だけだ。船長が不要と判断したものは、どんなに大切でも諦めてもらうしかない」

アラアラ国王は悲痛な面持ちで島民たちを説得しました。

こうして、島の人々は生き延びるために、長年共に暮らした家畜やペットたちを島に残し、涙ながらの別れを告げなければなりませんでした。

つづく

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