13

嵐からちょうど一年が経ち、アラアラ国には平和が戻っていました。

港には、サレド国から来た一隻の大きな客船が停まっていました。

その船は、タント・ピエールが故郷に帰るために乗る船でした。

クリオ少年や、タントと一緒に嵐を乗り越えた仲間たちは、彼の帰国を惜しみながらも見送る準備をしていました。

国王は、タントに感謝の気持ちを込めて、アラアラ国の伝統的な装飾品を贈りました。

仲間たちは目に涙を浮かべながら、別れを惜しんでいました。

「タント、ありがとう」

クリオがタントの正面に立って、小さな声で言いました。

彼の目にも涙が光っています。

タントは少し驚いたようにクリオを見つめました。

クリオの口の動きを慎重に読み取り、頷くと、ゆっくりと笑顔で返事をしました。

「僕も、君たちと過ごした時間を忘れないよ」

タントの言葉にクリオは一瞬泣き出しそうになりましたが、すぐに満面の笑顔になりました。

タントはふと、アラアラ山の頂上を最後に見上げました。

そこには、かつて化け物植物「ドゥーム・ツリー」があった場所です。今では緑の美しい森になっていました。

嵐の中で聴力を失ったタントにとって、目の前の穏やかな光景は、その日々が無駄ではなかったことを示すものでした。

「もう、怖い植物はいないんだな」

タントは、心の中で静かに呟きました。

船の汽笛が鳴りました。

その時、名前も知らない少年が急いで駆け寄ってきました。

タントはクリオだけでなく、島中の子供たちから慕われています。

「タント大臣、また会えるよね?」

真剣な顔で尋ねた少年の唇の動きを、タントはじっと見つめました。

タントは優しく微笑むと、再び笑顔を浮かべて応えました。

「きっと、いつか再会できるさ」


その言葉を見届けた少年は少し安心したように頷きました。

船が静かに港を離れると、タントはサレド国の方角を見つめました。

彼の背中には、アラアラ国での冒険と新しい友情が、しっかりと刻まれていました。

「さようなら、タント!」

港にいる人々は、みんなタントに手を振りながら、その背中を見送りました。

タントは手を振り返しながら、唇を動かして静かに言いました。

「さようなら、みんな」

彼が船の上で目を閉じると、嵐の日々の記憶が浮かび上がりました。

耳が聴こえなくなった時の喪失感、そして仲間たちとの絆が、彼の心を温めてくれたこと。

アラアラ国で過ごした日々の思い出が、彼らの心に残り、感謝と別れの気持ちが入り混じります。

タントは妻が待つサレド国へと向かうのです。

船が遠ざかるたび、アラアラ国の島影が少しずつ遠くなっていきます。

この島での思い出は、まだ若いタント・ピエールの人生の航海を照らす、永遠の灯火となるのです。

 

アラアラ島のタント・ピエール おわり

「アラアラ島のタント・ピエール」は今回で終了です。最後までお読み頂きありがとうございます。この作品はランキングに参加しています。よろしければクリックをお願いします。

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