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嵐からちょうど一年が経ち、アラアラ国には平和が戻っていました。
港には、サレド国から来た一隻の大きな客船が停まっていました。
その船は、タント・ピエールが故郷に帰るために乗る船でした。
クリオ少年や、タントと一緒に嵐を乗り越えた仲間たちは、彼の帰国を惜しみながらも見送る準備をしていました。
国王は、タントに感謝の気持ちを込めて、アラアラ国の伝統的な装飾品を贈りました。
仲間たちは目に涙を浮かべながら、別れを惜しんでいました。
「タント、ありがとう」
クリオがタントの正面に立って、小さな声で言いました。
彼の目にも涙が光っています。
タントは少し驚いたようにクリオを見つめました。
クリオの口の動きを慎重に読み取り、頷くと、ゆっくりと笑顔で返事をしました。
「僕も、君たちと過ごした時間を忘れないよ」
タントの言葉にクリオは一瞬泣き出しそうになりましたが、すぐに満面の笑顔になりました。
タントはふと、アラアラ山の頂上を最後に見上げました。
そこには、かつて化け物植物「ドゥーム・ツリー」があった場所です。今では緑の美しい森になっていました。
嵐の中で聴力を失ったタントにとって、目の前の穏やかな光景は、その日々が無駄ではなかったことを示すものでした。
「もう、怖い植物はいないんだな」
タントは、心の中で静かに呟きました。
船の汽笛が鳴りました。
その時、名前も知らない少年が急いで駆け寄ってきました。
タントはクリオだけでなく、島中の子供たちから慕われています。
「タント大臣、また会えるよね?」
真剣な顔で尋ねた少年の唇の動きを、タントはじっと見つめました。
タントは優しく微笑むと、再び笑顔を浮かべて応えました。
「きっと、いつか再会できるさ」
その言葉を見届けた少年は少し安心したように頷きました。
船が静かに港を離れると、タントはサレド国の方角を見つめました。
彼の背中には、アラアラ国での冒険と新しい友情が、しっかりと刻まれていました。
「さようなら、タント!」
港にいる人々は、みんなタントに手を振りながら、その背中を見送りました。
タントは手を振り返しながら、唇を動かして静かに言いました。
「さようなら、みんな」
彼が船の上で目を閉じると、嵐の日々の記憶が浮かび上がりました。
耳が聴こえなくなった時の喪失感、そして仲間たちとの絆が、彼の心を温めてくれたこと。
アラアラ国で過ごした日々の思い出が、彼らの心に残り、感謝と別れの気持ちが入り混じります。
タントは妻が待つサレド国へと向かうのです。
船が遠ざかるたび、アラアラ国の島影が少しずつ遠くなっていきます。
この島での思い出は、まだ若いタント・ピエールの人生の航海を照らす、永遠の灯火となるのです。

アラアラ島のタント・ピエール おわり
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