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大黒屋の広間には、五人の少年たちが集まっていた。
松井大和は、静かに茶を啜りながら、周囲の様子を観察していた。
狩野陽向が突然立ち上がり、驚いた表情で手話で言った。
〈あれ!? お嬢さんが…〉
松井大和は眉をひそめて、狩野に問いかけた。
〈どうした?〉
狩野は焦った様子で答えた。
〈お嬢さんが出て行ったよ〉
その言葉に、佐々剛介も驚きの声を上げた。
〈静香さんが?!〉
大黒屋の主人は、四人の手話は分からなかったが、何となく見当をつけて説明した。
「ああ、静香ですか?静香は願掛けに出かけていったのでは」
横井岳人は不安そうに尋ねた。
「願掛けですか?!いや、何で?」
主人は静かに答えた。
「武蔵春信様のためのようです」
松井大和は深く考え込むように頷いた。
「そうですか…やはり武蔵さんお身体が悪いんですか…時々身体がふらついているようですし」
大黒屋の主人は驚いた表情で大和を見つめた。
「ご客人。ご存知でしたか?!」
大和は静かに答えた。
「武蔵さんの笛の音は、最初はお上手だった。でも途中から妙に乱れた感じがありました。そこの縁側でコケそうになった時も、ふらついて足元の覚束ない感じだった」
主人は深く頭を下げた。
「恐れ入りました。お察しの通りでございます。武蔵様はそのために、身を引こうと考えておられます。大久保道場の師範代を大久保真丸様に譲ろうと、厳しい稽古をつけておるそうです。ところが…お嬢様の史恵さんも門弟の皆さんも、武蔵さんが真丸様を痛ぶっていると思い込んでおるとか…しかし武蔵さんは一言も弁解なさらぬのです」
松井大和は深く息をついた。
「そうでしたか…それで武蔵さんの病気の回復の見込みは?」
主人は首を振った。
「さぁ…そればかりは何とも…何の病かも分からないそうです」
大和は静かに祈るように言った。
「静香さんの願掛けが通じると良いですね」
主人は微笑んで答えた。
「はい。あッ、お茶をもう一ついかがですか?」
主人は広間を出ていった。
その時、横井岳人が立ち上がった。
佐々剛介は問いかけた。
〈岳人、どこ行くんだよ?〉
岳人は焦った様子で答えた。
〈静香さんのことが気になって〉
松井大和が驚いた表情で問い返した。
〈何だよ、気になるって?〉
岳人は真剣な表情で答えた。
〈誰かに連れて行かれたような気がするんだ〉
大和は首を振った。
〈俺は誰も見なかったぞ〉
岳人は苛立ちを隠せずに言った。
〈大和はずっと喋ってたじゃん。分からなかったんだよ〉
その時、狩野陽向と佐々剛介が同時に縁下を覗いた。
〈おい、飛雄がいないぞ。さっきまでそこにいたのに…〉
岳人は驚きの表情で言った。
〈あいつ、まさか…〉
猿渡飛雄のスニーカーを探したが、見つからなかった。
〈静香さんの後を追った?〉
大黒屋の広間には緊張が走った。
四人の少年たちは静香と飛雄の行方を追うべきかどうか逡巡した。
しかし、静香が出ていって、だいぶ時間が経ったような気がする。
彼らの心には、不安と決意が交錯していた。
つづく
