世界から少しずれた誰かの、声にならない叫び。ささやかな祈り

時の彼方で 20.幽迫

時の彼方で 20.幽迫

20

朝もやが立ち込める合志屋敷の一室。

薄暗い障子越しに差し込む朝日が、静香の青ざめた顔を照らしていた。

彼女は畳の上に座らされ、両手を後ろ手に縛られていた。

静香の前には、合志仙蔵が不敵な笑みを浮かべて立っていた。

「どうだ、わしの手元に置いてやろうか?手厚くもてなすぞ」

仙蔵は静香に向かって言った。彼の声には薄気味悪い色気が滲んでいた。

静香は顔をそむけ、答えようとしなかった。仙蔵は構わず続けた。

「間もなく、武蔵春信は黄泉へと旅立つだろう」

「はっ!?」

静香は思わず声を上げた。その瞳には恐怖と驚きが混じっていた。

仙蔵は静香の反応を楽しむかのように、ゆっくりと彼女に近づいた。

「たっぷりと可愛がってくれようぞ…ふっふっふ」

彼の低い笑い声が部屋に響いた。

静香は身を縮めながらも、毅然とした態度を崩さなかった。

「おやめなさい。誰があなたなんかに…」

彼女の声は震えていたが、目は決意に満ちていた。

「むっ、何と申した」

合志仙蔵は気色ばみ、刀に手をやった。

その時、部屋の隅にいた桐場屋が咳払いをして言った。

「若様!今は大事を優先すべき時ですぞ」

桐場屋は仙蔵をたしなめた。

仙蔵は我に返ったように、静香から一歩下がった。

「ううむ、まぁ、焦ることもあるまいて」

彼は不満そうに呟いた。

静香は安堵のため息をついた。

鳥のさえずりが聞こえ始めている。

外では、辰の刻が迫り、朝の光が屋敷を照らし始めていた。

 

つづく

にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へ 小説(純文学)ランキング



この記事をシェアする

記事一覧へ戻る

関連記事 Relation Entry