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月明かりが薄れ、闇が深くなった頃、町はずれの葛西道場の中庭に人影が集まっていた。
月に照らされた木々の影が、不気味に揺れる中、葛西道場の面々が顔を寄せ合っていた。
葛西源生の顔には不安と怒りが入り混じり、額には冷や汗が光っている。
「何やつじゃ!」
葛西源生が声を荒げた。
その声は夜の静けさを破り、周囲の木々を震わせるようだった。
突如、闇の中から低い声が響いた。
「案ずることなかれ、我はドン・パルマ。敵ではない。そなたたちの同朋じゃ」
その声の主は、月明かりに照らされた顔を現した。
ドン・パルマと名乗る長身の男は、異国の宣教師のような装いに身を包み、胸には十字架が輝いていた。彼の髪は長く、冷徹な目つきで葛西たちを見下ろしていた。
「大久保藤淳を葬り、細川藩・合志家の剣術指南役として貴殿の望みを実現させてやろう」
ドン・パルマの言葉に、葛西源生の目が驚きで見開かれた。
「何と申すか!?」
葛西源生の声は震えていた。
藤崎閃電が咄嗟に剣に手をかけ、怒鳴った。
「戯(たわ)け申すな!」
彼が剣を抜こうとした瞬間、影から現れた男に腕を掴まれた。
「貴様、何をする!」
閃電は叫んだが、次の瞬間、男の腕は閃電の右腕を絞め上げていた。
「は、離せ!」
閃電は苦痛の声を上げた。
葛西源生も剣に手をかけようとしたが、突如現れた別の男に阻まれた。
「何をする!」
葛西も叫ぶ。
「いらぬ手出しはするな!黙って聞け!」
パルマの横にいた男が厳しい口調で命じた。顔に深い皺が刻まれ、鋭い目つきの男だった。
「我が名はモンテロ。動かんほうがいい、命が惜しければな」
もう一人の男が冷ややかな声で「俺はバルボアだ」と背後から名乗った。黒いコートに身を包み、その下には白いシャツが覗いていた。
葛西たちは恐怖に震えながら、ドン・パルマの言葉に耳を傾けた。
月光に照らされたドンの顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。
「大久保道場には、予想外の助っ人が現れたようだな」
ドン・パルマの言葉に、葛西源生は首を傾げた。
「助っ人!?武蔵春信のことか?」
葛西の声には、不安と怒りが混ざっていた。
ドン・パルマは首を横に振った。
「いや、今夜の闇討ちを邪魔した連中には、異界から迷い込んだ小僧らがいたはずだ」
その言葉に、葛西たちの間で動揺が広がった。
夜風が木々を揺らし、影が不気味に踊る中、モンテロが口を開いた。
「故に我々が諸君らの後ろ盾となろうというわけだ」
葛西源生は眉をひそめ、疑わしげに尋ねた。
「その若造どもは一体、どこの者でござるか?」
ドン・パルマは冷笑を浮かべながら答えた。
「小僧らが何者かなど知らずともよい」
彼の声は氷のように冷たかった。
「貴殿らは大久保藤純と武蔵春信を、我々は若者たちを片付けるだけのことだ。その準備を整えよ」
バルボアが言葉を添えた。
「逡巡することはなかろう。互いの望みを叶えるための道なのだから」
葛西源生は躊躇していたが、決意を固めたようだった。渋々応えた。
「心得た。それで、如何にすればよいのか?」
ドン・パルマの目が月明かりに不気味に光った。
「我々はまず、武蔵春信を誘い出すべく、オトリを用意しよう」
その言葉とともに、夜の闇がさらに深まったかのように感じられた。
大久保道場の運命が変わろうとしている。
木々のざわめきだけが、この不吉な密談の証人となっていた。
つづく
