世界から少しずれた誰かの、声にならない叫び。ささやかな祈り

時の彼方で 26 契約

時の彼方で 26 契約

26

松井大和は薄暗い大広間に佇んでいた。

山奥の城は静寂に包まれ、蝋燭のかすかな灯りが壁に揺らめく影を作っている。

大広間の中心には、異様な雰囲気を纏ったドン・パルマが座っていた。

背後には、重々しい絹の垂れ幕がかかり、まるで異世界のような幻想的な空間が広がっている。

「大和、お前は今、現世で死にかけていることを知っているか?」

ドン・パルマの低い声が、静寂を破る。

彼の目は大和を捉えて離さない。

大和は身動ぎもせず、静かにうなずいた。

「たぶんそうだと思った。でも、どうして僕の魂をここに呼び寄せたんだ?」

ドン・パルマの口元に微笑が浮かんだが、目は冷たいままだ。

「僕の歴史の知識を活用して、キリシタンを優位に立たせるためだろう?」

大和は疑念を込めて問いかけた。

しかし、ドン・パルマはその問いを軽く否定した。

「ふん、そんなチンケなことを望んではおらん」

「では、何故だ?」

大和の声は抑えたものの、その目は鋭い。

「すべては神の御導きじゃ」

ドン・パルマは静かに言った。

「お前の民を幸せに導く資質を見抜き、神がお前を選んだのじゃ」

大和はじっと彼を見つめた。

謎に包まれたこの男の言葉には、深い意味があると感じた。

しかし、それ以上問うことは無意味だと悟り、大和は肩をすくめた。

「とにかく、あいつらを現世に返してくれてありがとう」

大和は静かに言った。

彼の頭の中には、瓦礫の中で生き延びた仲間たちの姿が浮かんでいた。

「おぬしもいずれ帰れるぞ」

ドン・パルマは穏やかに告げた。

だが、大和はその言葉に疑いの色を浮かべた。

「いや、史実的には帰れないことになっているんだ」

ドン・パルマは何も言わず、ただ大和を見つめた。

その瞳には、すべてを知っている者の無表情な冷たさがあった。

「信じる者は救われる、か…」

大和は、現世に戻ることができる可能性がないことを薄々感じ取っていた。

「とにかく僕には、ここで果たさなければならない役割があるんだな」

ドン・パルマは静かにうなずいた。

「その通りじゃ。お前が果たすべき役目が終われば、神はお前を解放するだろう」

大和は深く息をつき、覚悟を決めた。

彼はもう、自分の生命がどうなるかを気にしていなかった。

すべては仲間たちを救うことで終わったんだ。

そして、それが達成された今、自分が犠牲になるのは仕方がないと思うことにした。

「分かった。じゃあ、俺の役目が終わるまで、ここで生きることにしよう」

大和は静かに立ち上がり、城の外へと向かう準備を始めた。

やがて、ドン・パルマの姿は大広間の闇に溶け込んでいき、大和はただ一人、深い静寂の中に立ち尽くしていた。

この時、彼はまだ知らなかった。

自分が革命の主人公として、島原の民を導き、歴史の中でその役割を果たすことになることを。

 

つづく

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