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松井大和は薄暗い大広間に佇んでいた。
山奥の城は静寂に包まれ、蝋燭のかすかな灯りが壁に揺らめく影を作っている。
大広間の中心には、異様な雰囲気を纏ったドン・パルマが座っていた。
背後には、重々しい絹の垂れ幕がかかり、まるで異世界のような幻想的な空間が広がっている。
「大和、お前は今、現世で死にかけていることを知っているか?」
ドン・パルマの低い声が、静寂を破る。
彼の目は大和を捉えて離さない。
大和は身動ぎもせず、静かにうなずいた。
「たぶんそうだと思った。でも、どうして僕の魂をここに呼び寄せたんだ?」
ドン・パルマの口元に微笑が浮かんだが、目は冷たいままだ。
「僕の歴史の知識を活用して、キリシタンを優位に立たせるためだろう?」
大和は疑念を込めて問いかけた。
しかし、ドン・パルマはその問いを軽く否定した。
「ふん、そんなチンケなことを望んではおらん」
「では、何故だ?」
大和の声は抑えたものの、その目は鋭い。
「すべては神の御導きじゃ」
ドン・パルマは静かに言った。
「お前の民を幸せに導く資質を見抜き、神がお前を選んだのじゃ」
大和はじっと彼を見つめた。
謎に包まれたこの男の言葉には、深い意味があると感じた。
しかし、それ以上問うことは無意味だと悟り、大和は肩をすくめた。
「とにかく、あいつらを現世に返してくれてありがとう」
大和は静かに言った。
彼の頭の中には、瓦礫の中で生き延びた仲間たちの姿が浮かんでいた。
「おぬしもいずれ帰れるぞ」
ドン・パルマは穏やかに告げた。
だが、大和はその言葉に疑いの色を浮かべた。
「いや、史実的には帰れないことになっているんだ」
ドン・パルマは何も言わず、ただ大和を見つめた。
その瞳には、すべてを知っている者の無表情な冷たさがあった。
「信じる者は救われる、か…」
大和は、現世に戻ることができる可能性がないことを薄々感じ取っていた。
「とにかく僕には、ここで果たさなければならない役割があるんだな」
ドン・パルマは静かにうなずいた。
「その通りじゃ。お前が果たすべき役目が終われば、神はお前を解放するだろう」
大和は深く息をつき、覚悟を決めた。
彼はもう、自分の生命がどうなるかを気にしていなかった。
すべては仲間たちを救うことで終わったんだ。
そして、それが達成された今、自分が犠牲になるのは仕方がないと思うことにした。
「分かった。じゃあ、俺の役目が終わるまで、ここで生きることにしよう」
大和は静かに立ち上がり、城の外へと向かう準備を始めた。
やがて、ドン・パルマの姿は大広間の闇に溶け込んでいき、大和はただ一人、深い静寂の中に立ち尽くしていた。
この時、彼はまだ知らなかった。
自分が革命の主人公として、島原の民を導き、歴史の中でその役割を果たすことになることを。
つづく
