29
凍てつく風が吹き抜けるウインドベルのK4地区。
年が明けても、この街の喧騒は変わらない。
リプリーにとっては日常かもしれないが、オットーとケンジの年明けは、まるで嵐の中を走り抜けるような慌ただしさだった。
チェインバーグから戻ってきたのは、年の瀬も迫る12月29日のこと。
だが、その到着が新たな戦いの始まりだった。
二人に課せられた使命は、パルチノン薬害に関する書類の発掘…。
宝探しならぬ、書類探しの始まりである。
「確かにあるはずなんだ」
オットーは自然科学研究所の薄暗い廊下を見つめながら、そう呟いた。
以前の調査結果が眠っているはずの場所を、所長である彼自身が思い出せないという皮肉。
百万近いファイルの山の中から、一つの真実を見つけ出さねばならない。
研究所の書架という書架を総ざらいした二人。
答えを見つけたのは、皮肉にも建物の裏手に佇む、誰も寄り付かない古びた倉庫の中だった。
1月3日、ケンジの勝利の声が倉庫から響き渡った。
だが、その代償は小さくない。
彼の姿は、まるで蜘蛛の巣をまとったハロウィンの仮装のようだった。
そして昨日、ようやくオットーはリプリーにファイルのコピーを届けることができた。
これで一段落…そう思いたかった。
「やれやれ…」
ケンジは深いため息をつきながら、この騒動が終わりではなく、むしろ始まりなのだと悟っていた。
つづく
最後までお読み頂きありがとうございます。この作品はランキングに参加しています。よろしければクリックをお願いします。
Follow @hayarin225240